廃棄処分
岡部淳太郎

ふと目についたところから壊して捨ててゆく。
それから新たに建て直す。それから新たに作
り変える。捨てていけ。変えていけ。わが国
の年間一人当たりのゴミ排出量は、年毎に右
肩上がり。とうの昔に二千トンを超えて、こ
のぶんだと、そう遠くない未来に怪獣一匹分
の体重と同じになってしまうのだが、かまう
ことはない。捨てていけ。変えていけ。煙草
を捨て、しわがれた声を捨て、古い歌を捨て、
新しい煙草に火を点けろ。新しい声を身につ
けろ。新しい歌に気をつけろ。

処分。処分。

古い思い出を焼き払い、古い寺院を焼き払い、
新しい思い出の誕生。新しい神の誕生。神は
いつでも傲慢だ。粗野な切り傷を逆撫でする
ように、信じることが新しさを作り出す。捨
てていけ。変えていけ。時が時なら、神だっ
て変節する。人だって変節する。

処分。処分。処刑。処刑。

島流しにされたかつての豪族の、錆びついた
刀などにもう用はない。なんなら島の沖合い
の埋立地にその古い武器ごと、その古い怨み
ごと、捨ててしまうが良い。死体を埋め、新
しい死体を絶え間なく生産させよ。地下数千
メートルの安全な地層に埋めておけば、放射
能の影響はありません。住民の方々に何ら被
害が及ぶことはないのです。繰り言を捨て、
繰り返す日々の営みを捨て、離された首だけ
が無残に転がっている。放っておけ。捨てて
おけ。誰もが簡単にやわらかくなる。

処分。処分。

今日もゴミを集め、今日もゴミを捨ててゆく。
古い岩石は脆くも崩れ落ち、無数の砂となっ
て風に流されてゆく。私が死んだら風葬にし
てください。鳥についばまれて、風の吹くに
まかせて、捨てていけ。変えていけ。誰もが
脅えながら変ってゆく季節。落葉を掃け。胃
液を吐き出せ。

処分。処分。処刑。処刑。

この世界は綺麗さっぱり洗い流されて、誰も
が遠い眼で簡単な頭を持つようになるだろう。
この世界は綺麗さっぱり掃き清められて、誰
ももう遠い歌を聴くことはないだろう。

処分。処分。

捨てていけ。変えていけ。怪獣一匹分の思い
出も、習慣も、やっとの思いで習得した技術
もみんな、捨てていけ。変えていけ。恐れる
ことはない。われわれは誰もがいずれ捨てら
れる。われわれは誰もがいずれ忘れられる。



(二〇〇五年六月)


自由詩 廃棄処分 Copyright 岡部淳太郎 2005-06-15 20:39:33
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