生まれ変わったら何になる?
瓜田タカヤ

生まれ変わったら何になる?

カイリ(娘5歳)を連れて業務用センターというお店へ買い物によく行く。
仕事で毎日漬け物を使用するのだが、この店が一番安いからだ。
カイリは店内に設けられた100円均一コーナーでお菓子やクレヨンや
シールを買えるのが嬉しいので行くのだろう。


飼っている犬のタオがなんか死にそうだ。
肝臓の病気であると病院の先生に言われたのだが
どうもうまく治らない。
それでも、カミさんがタオを飼うと決めた時に
「きっと子供が小学生になる頃に寿命が来るだろうから
 命の勉強にもなると思うわ」
と言っていた通りになりそうだ。

カミさんがタオの餌内部にこっそり薬を入れるが
最近では慣れてきたのか、選別して薬をよける。
餌自体もあまり食べたがらない。
食欲自体があまり無い。

カミさんが、どうしても薬を飲まないタオと、
泣き出す赤ちゃんに苛ついていたので、俺は
「薬殺されると思ってるんじゃないの?」と
ソファーに寝そべりながら冗談を言ったつもりであったのだが、
機嫌の悪いカミさんには通じなかったようで
散らかった部屋の空気を悪くしただけだった。

カイリはそんなタオの挙動を見て聞く
「タオ死ぬの?」と言う。
俺は、そうかもね。と言い
でも死んでも、また生まれ変わるから寂しくないよ。と言ったが
カイリはタオが死ぬことに対してそれほど悲しさを感じていないようで
適当に相づちを打ち、テレビとか見ていた。

死んだら、何か別のもに生まれ変わるのだろうか。

死体が土になり草木の養分になり、それを草食動物が食い・・
って感じの、大きな意味での生命の輪の一部って意味では
まさに「何か」に生まれ変わっているのかも知れない。

しかし魂はそこにあるのだろうか。魂って何?
死体状態の死体に記憶は無い。記憶は死ぬ。
記憶は自分の事を愛してくれた他者が所持する。
それが魂だ。記憶が魂だ。
と強引に思ってみる。

魂という概念を信じたいのだ。
何らかの理由を付けてでも、
死体というモノになって無に帰す儀式を所有する事を否定したいのだ。
怖いのだ。
愛する人や思いとの決別が。
記憶の無い、得体の知れない何かに変わってしまう自己の喪失感が。

生まれ変わったら何になる?

西日暮里でラエリアンムーブメント西日暮里支部を作って
工事現場で働いた金をエジプトに送付する人間になるだろうか。

33回目のレイプで捕まるレイプ犯の
32回目の犯行を目撃した人間が、商売で育てている
三千匹ハムスターの一匹になっているだろうか。

子宮に到達しきれぬ精液の内部にいるだろうか。

生まれ変わったら何になる?

カイリと買い物に行った時、彼女がウフフと適当に笑いながら言う。

「カイリ死んだら 安い漬け物になる。
 そしたらパパ いつも買ってくれるでしょ。」

そこには、自分の記憶や他者の記憶は関係なく、
つながっている。とういう事実だけがあった。

俺はなんかちょっと泣きそうになりながら
黒酢とか業務用のでかい乾燥ワカメとかカゴに入れていた。



散文(批評随筆小説等) 生まれ変わったら何になる? Copyright 瓜田タカヤ 2005-06-15 03:38:42
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