鬼ノ園(おにノその)
こしごえ

みてはいけないものをみてしまった
それは、おそらくヘビの
そこのない くろくすんだつめたい瞳
よこしまの真実は
ひどく
くらくしめった うずまく混沌



その晩のこと。
「今日子さん、お食事にしましょ」
白い星は夕涼み
「わすれていたわ」
蛍がチラホラ水辺を散歩
「ひるま、ゆめをみたの。
こちらをじっと、うかがっていたわ」
どこかの太陽が
地平線で侵食されてゆく。
何が?
と問う暇もなく少女は、
お庭にりて
池の蛍を眺め始めた。
「……」

あのひとは、ここを訪れない
静かに澄んだ池の水は、
夕闇にとけて
はるか彼方の星座は、
静けさに打ち解けて
いるというのに



「このスープ、すこしサラサラね」
「もう少し濃い方が良かったかしら」

わたしも食事をする
たいていのものは、おいしくいただく
ただ一つ
きらいなもの
それは人間
たましいの色とりどりが
いたいたしくも輝いていて
わたしの五感を震わす
そして
さいごの感覚がダメという
はいりこんではイケナイと…。

「ごちそうさま」
「お粗末様でした」



南天から
蛍の戯れを
あのヘビの目がなめている

暗黒に住まう
音がピシピシと
この体に内包している淋しさを
いっそうみじめにさせる

星の曲線を
れた引力が
いつしか明滅を
狂わせて青く
闇色の排泄をさせる

あのひとは、ここを訪れない
ひとりのひとを愛してしまった
わたしは鬼

命が、ひそやかに瞬いている


自由詩 鬼ノ園(おにノその) Copyright こしごえ 2005-06-12 16:04:22
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