鯖の記憶
大覚アキラ

昼に食べた塩鯖定食が
まだ食道の辺りに引っ掛かっているようで
息を吐き出すたびに
生臭い匂いが口腔に溢れてきて

ふいに
十年前に他界した祖母と
いつもその膝の上で丸まっていた
年老いた三毛猫を思い出した

背の青い魚は体にいいんだよと
口癖のように言っていた祖母がまだ元気だった頃
田舎に帰るたびに食卓に上っていたのは味噌漬けの鯖
前日の晩から味噌に漬け込んだ切り身を
皮にこんがりと焦げ目が付くぐらい
じっくりとじっくりと弱火で焼いて
わたしがそれを食べるのを
いとおしむように眺めていた祖母のまなざしは
今でもわたしの視界の隅に焼き付いている

祖母も三毛猫も既にこの世にはいないが
わたしは今でも週に一度は鯖を食べる
そしてときどき
祖母と三毛猫のことを思い出す





自由詩 鯖の記憶 Copyright 大覚アキラ 2005-06-12 13:30:13
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