魚の幸
月乃 猫



なにげない午后

知らない私がいる

歩き方をわすれてしまった日
腕さえ 独りよがりの
振り子の揺れで、

裸足でたつ
ありふれた海辺の砂
ひんやりとする 爪先

来た道を振り返れ
遠い記憶を 遡りはじめ
思い出す/訪れる
懐かしい古代の村

森がせまる海にむかうそこは、

米松を倒し
小屋を建て
人の営みがある

巨きな木を彫る
獣の 海獣を象徴とする人人

ここに、
魚を捕らえ 生きる者たちがいる
夏の終わりより 川を上るその
腹を裂き 燻製にする
それが 冬の備え
次の秋も また次の秋も
疑うことなく
繰り返されてきた

海の恵みは、魚の民の幸となり、
生きとし生けるものの糧となる

細い 煙をあげる小屋にむかう
蓆をまとった若い女の
長い からまった髪
振り向く
裸の うすい胸に
もがく魚をかかえ
笑顔に 同等な喜びが
反射する光を
鱗が放つ

娘の声は、響く
聞いたこともない笛の音
仲間にかけるそれで、 
海風にのり

時のこちらで 私は、
女をみつめ

次の この一歩が
先に 進んでいくことを
願いながら、




自由詩 魚の幸 Copyright 月乃 猫 2026-02-28 18:32:17
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