暗闇に最初に差し込んだ光のことを
ホロウ・シカエルボク
悲鳴のようなノイズの中で微睡んだ午後、突き抜けようとする意志でなければ心は鳴らなくなった、もがき苦しんで光を求めていたなんてのは昔の話さ、今はもっと純粋な目的の為に指先はシャウトする、激しいビート、いつだってその日打ち出せる最速のビート、回転数を上げて錆び付いた精神に油を差すのさ、意志だけじゃ成り立たない、身体だけでも良くない、二つが揃って同じ方を向いて初めて言葉は生まれる、俺はその打ち出し方をすでに知っていて、書こうとしない時でも身体は整えている、全身に上手く電流が流れるようにしておかなければ駄目さ、思考は脳味噌だけでするわけじゃない、脳が生み出したものが身体中に伝わることで初めて言葉に血が通う、肉体のリズムと言葉のリズムがシンクロするのさ、もちろん、思考と体動の間にはほんの少しタイムラグがある、その差が広がったり狭まったりするせいでグルーブが生まれる、こんな話をするのは久しぶりな気がする、なんせ俺、グルーブっていう概念には一回飽きてしまっていたからね、ま、そんなの平面上だけの話だけど…つまりさ、俺は言葉だけでどうこうしようなんて微塵も思っちゃいないんだ、言葉っていうのは一つの素材に過ぎない、それを使ってどんなものを生み出すのか、その羅列によってどんなうねりが生まれるのか、どんな解釈がどれだけ用意されるのか、そんなものの集合体をグルーブと呼んでいるんだ、スタジオにみんなで集まってせーので音を出して生まれるうねり、そういうのが言葉の羅列の中にもちゃんとあるんだ、たったひとりで生み出せる思惑通りのグルーブさ、言葉を意のままに操れることが出来ればそれはそんなに難しいことじゃない、額面通りのものを書こうとしないことさ、すべての言葉にあらゆる意味を、ニュアンスを込めることだ、どうしてそんなことをするのかって?この世に存在するあらゆるものに明確な理由が明記されているわけじゃないだろ、だからだよ、ナイフは果物の皮を剥くことも出来るけれど誰かの身体に食い込ませることだって出来るんだ、あらゆる目的の為のあらゆる動作、動機、もしも俺がナイフについて何かを書くとしたらそんなあらゆる状況について書き綴るだろう、ナイフという存在のすべてが描かれていなければ、俺はそれを失敗だと位置づけるだろう、窓の外は酷く曇っている、スレンダーマンみたいな怪物が蜘蛛の向こうから歩いてきそうな景色だよ、カーテンを閉めることも出来るけれどこんな風にもう少し楽しんでみてもいい、イメージそのものは誰にも危害を加えることはない、でもどんなイメージにだってそれによって傷ついたりする人間がいる、だけど、聞いてくれ、俺はそんな煩わしい出来事が続くからといって書くことを止めたりはしないよ、これは生命活動みたいなものなんだ、これを止めたら俺という生体には間違いなく深刻な不具合が生まれるだろう、実際、今みたいに出来ない頃なんていつだって最悪の記録を更新し続けていたからね、一度知ってしまったものを放り出してしまったらどれだけの反動が心身に現れるか…想像するだけで鳥肌が立つくらいさ、光合成が必要な植物を暗所に閉じ込めて育てるようなものだ、いくら促進剤や水を適切に与えても本当の意味で育つことは出来ない、俺はそんな気分を随分長い間味わい続けてきたんだよ、周りの連中が明るい、楽しいと思って生きていた場所は俺にはひどく澱んだ薄暗いものに見えたんだ、金を沢山持ってるとか、ご立派な肩書の仕事をしているとか、腕っぷしが強くて喧嘩じゃ負けたことがない、なんてそんなものを美徳みたいに語っている連中より、俺には、凄く美しい詩を書くとか、もの凄く歌が上手いとか、凄く心に響く曲を書くとか、繊細な色遣いで風景をカンバスに収めることが出来るとか、そんなことが出来る人間の方がずっと格好良くて意味のあるものに見えたのさ、だから俺は彼らから受け取ったものを自分なりのやり方で形にしたくて懸命に生きている、ここ数年はなかなかいいものが出来ているという実感があるよ、俺が生み出したものたちが確かに呼吸をしていると―目をギラギラさせながら魂を振動させていると感じることがよくあるんだ、そうだな、変な話、今まではずっと助走の仕方についてあれこれと模索していたような気がするんだ、本当の意味で走り始めるのはこれからさ、スピードに乗って行けるところまでぶっ飛ばしていくんだ、肉体のリズムも言葉のリズムもこの先を待ち望んでいる、近頃じゃ日常をのんびり送ることもままならないくらいに追いまくられている気さえするよ、綺麗に生きることが美徳じゃない、俺はあまり綺麗なことはしてこなかった、そうしたものは総じて退屈なんだ、凄く狭い価値観の中での出来事なのさ、本当に大切なことは、自分が生きて来たすべての時間を、これまでしてきたすべての事柄を、これからやろうとしていることの中に注ぎ込めるのか、そんな姿勢こそを俺は本当に美しいと思いたいんだよね。