小説の習作 原稿用紙三頁 #17
田中教平
今朝は寒いのか、暖かいのか分からなかった。ユウスケ、彼が妻に訊ねると
「丁度いい」
という、なんとも言えない答えが返ってきた。
彼は朝湯に何度か浸かり、元気を出そうとつとめたが、叶わなかった。少し憂鬱な心地のまま可燃ゴミを捨てに出た。
ユウスケの住居を中心にして、北に向かえば、日蓮修行の地にあたる大きな寺があり、そのパワーが日々、北の圏内を守っていると思われた。しかし不思議な事に、その寺の周辺のお寺、又、ユウスケの住居から東、南、西、にあたるお寺はことごとく禅宗なのである。
つまり、この北側の大きなお寺も、そもそも禅宗であって、日蓮はその中に身を置く事で、自己研磨し、後に法華宗を確立した可能性があるのではないか、と、ユウスケは勘ぐっていた。しかしすべては妄想である。
又、ユウスケが今、住んでいる住居から元々、遠く北東の山の中の家で一人暮らしをしていたとき、お隣がお寺さんであって、そこの若い長男が、今、その北の大きなお寺に修行に出ているということを、彼は、母から聞いていた。
以前、その周辺を散策したとき、作務衣に身を包んで頭を剃った若い衆、四、五人が、木々の枝の伐採作業を行っていた。ユウスケは、それが彼らの、その日の米を炊く為にそうしていた事に、今頃になって気づいた。
日本のお寺の数は、コンビニエンスストアに匹敵するほど多く、後継者問題に悩んでいる所も多いと聞く。
二つのお寺を一つにまとめる、という意見もあるが、宗旨の事もあって、なかなかうまく解決の方に向かっていないらしい。
ユウスケは近く禅寺のベンチで休んだ。すると、そのお寺の和尚がひょっこり現れて挨拶してくれた。
「おはようございます」
この和尚はもう八十近くに見える。
以前町内会の集まりのときに、寄付をお願いされた事があった。
この和尚の願いは、このお寺を、修行道場に戻す事だと語っていた。
このお寺は、市の指定文化財などもあって観光の面で現在、特化しているが、本来的には違ったのだと。本来の道場の上に、重ねるように、そして、皆々様が観やすいように施工してあるが、その床なり、壁を、全部取っ払って、元の状態に戻したい。道場に戻したい、それが私の悲願です、と訴えていた。
しかし、その床の修繕費用だけの見積もりをとっても五千万円かかるし、お寺という場所が場所だけに、業者側も神経を尖らせざるを得ず、請け負ってくれる所を捜すだけで一苦労であると、赤裸々に語ってらっしゃった。
「お茶は美味しいですか」
和尚の言葉を受けて、いえいえ、などと謙遜しては、ユウスケは、葉、一枚も落ちていない庭を眺めた。