小説の習作 原稿用紙三頁 #15
田中教平
ユウスケ、彼は妻のカナと夜更け、近くコンビニまで歩いてゆく事にした。
彼は久しぶりにウイスキーが飲みたくなった。と云うのも、妻のカナが、歌詞を入力すれば音楽として成立させてくれるAIアプリに嵌まり込んだ。しかし元音響技師だったユウスケは、そうしたテカテカした音質よりも、よりアナログな音楽を聞きたくなった。具体的には戦前のアコースティック・ブルース、ロバート・ジョンソンが聞きたくなった。ロバート・ジョンソンを聞きながら、ウイスキーを飲むと、本当に愉快な気持ちになる。そこで彼は、妻に頼んで、ウイスキーの小瓶を買って貰おうと思ったのであった。
「煙草も止めたしいいだろう?」
「そうね、じゃあ買ってあげるよ」
ユウスケはコンビニの前で妻の買い物が終わるのを待ちながら、懐から一枚のパンフレットを開いて見た。
それは六所良邑(ろくしょよしさと)という人物について迫る説明書きが成されたパンフレットだった。
元は僧侶だった人物である。しかし彼は明治政府による神仏分離政策の影響で還俗する道を選ぶ。つまりは神職の身である事を選択した。更には教導職に就き、さらには地域の有力者になった、一宗教者であった、とある。
明治維新という社会構造の変化、そして支配体制の元で、近代化の荒波をどう乗り越えていったのか。
受動的に、つまり、そうあるべくして、神官の道を選んだのか、緊張感の高まる世相に、必死で自分の頭で考え抜いた結果なのか。その辺りの事をユウスケは知りたくなった。六所良邑(ろくしょよしさと)の人生が、水のような人生だったのか、火のような人生なのか知りたかった。
コンコン、と音がして、ふりかえるとカナが呼んでいた。
ユウスケはコンビニの中に入ると、カナ、彼女の手をとって、お酒コーナーに向かい、一番安いウイスキーを手にとって、レジに向かった。お金はカナが支払った。
帰宅してポストを開くと、ダイレクト・メールで一杯だった事に気づいた。最近、仕事の日も外のポストを見ていなかったのだった。
ユウスケが玄関を開けると、カナはダイレクト・メールやチラシ等を、玄関の床にばらまいた。二人はそれらを踏んで、すぐの書斎に入り、カナは戦利品とばかり袋を漁って、飲料を飲みはじめた。
ユウスケは寝室からスマフォを持ってくると、かけるブルースを思案しつつ、ウイスキーをグラスに注いだ。決定する前に、カナが新しくAIで制作した曲をかけた。
「ねぇ、いい曲だと思う?」
スマフォにLINEが着た。
ユウスケの仕事関係の連絡だった。
「木曜日の件、雨天が予想される為、中止」
その画面をユウスケはじっと眺めていた。