泥の中
ホロウ・シカエルボク


粉々に破壊された配電盤の中に隠されていた言葉の配列は、投身自殺の後四方八方に飛び散った脳漿を思わせた、方々に穴が穿たれた精神を抱えて、俺はそれが全て燃え尽きるまで燃料を投下し続けた、余計なものを残しちゃいけない、余計なものを残しちゃいけない、必要なものを持ちたいだけ持つ選択をするのなら…空は行くところまで行った精神病患者の白目のように澱んでいる、時々自覚のないひとり言みたいな雨が落ちて来る、それ以上降ることも止むこともない、誰にも知られていないところで繰り返される殺人のようにぽつぽつと降り続けている、望遠鏡を覗くのはやめておけ、ろくでもないものばかり目に入るぞ、徹頭徹尾守り続けて来た偽装的な幸福をこれからも後生大事に抱いていきたいのならね―いいかい、もしも本当にすべてのことを知りたいのなら、目を背けるという行為をどこかに捨ててしまうことだ、それが出来るっていうのなら俺だって少しは教えてあげられるさ、決して人に勧めるようなものじゃないけれどね、ひとつ線を踏み越える、そんな決意があるのならね…俺は別に、普通に生きることを嫌悪しているわけじゃない、下に見ているわけでもない、なのに俺がこういう話をすると、あの野郎下に見やがってって真っ赤な顔でまくしたてて来るやつが居る、なあ、俺はお前のことなんかどうでもいい、お前が勝手に下に入って来たんじゃないか、てね―まったく、何かしら自覚があって、それをごまかしながら生きているんだろうね、知ったこっちゃないよ、俺と関りを持とうなんて考えないで欲しいね、正直な話、時間を無駄にしたくないんだ、ただでさえもう、残り時間はそれほど多くは無いだろうからね、やっと手にし始めたものをちゃんと追いかけていたいのさ、もう一度言うよ、俺に無駄な時間を使わせるなよ…時々日常の中で、世界が軋む音を聞くことがある、具体的にそれがどういうものかなんて説明は出来ないよ、ただ直感的に、これはそういうものだって感じているだけさ、その直感の中で、世界は俺の中にあるのか、それとも俺の外にあるのかと考えるんだ、それは主観と客観の違いみたいなものかもしれない、結論から言うよ、それは、俺の中にしかないという結論以外有り得ない、人間は意思を持った時点で、他のどんな人間ともそれを共有することは出来ない、本当に自分の人生を生きようとする行為は、それ以外のどんなものとも交わることは出来ない、関係を築けないということでは無い、人間はもともと一個の命でしかないということだ、だから、歌や、音楽や、絵画や映像、物語や吐露で、それについて語ろうとするんだ、それが一人だけのものだと言うのならそんなことは無意味だって言うのかい?本当にそうかい?生まれてからこれまで、お前の心を震わせてきたものはひとつも無かったって言うのか?そこに答えがあるはずだよ、俺が返事するまでもないことだろう…主観でしかないんだ、主観でしかないんだよ、客観なんて自己満足に過ぎないのさ、そんなもの結局は、想像上の他人の主観なんだから―俺は時々、誰も人が住まなくなった通りを歩く、形だけが残された街に足音が木霊する、誰にも聞かれることがない音はどこに向かって反響を繰り返すんだろう、そしてどこかでまた俺は、配電盤を燃やし尽くすのだろうか、そこに残された言葉の配列は、またしても俺の衝動を浮き彫りにするのだろうか、恐れなければ狂うことなんか別にどうってことないよ、そんな変調にどっぷり漬かってみることもまた一興さ、知ることが出来るものは片っ端から知っておいた方が良い、ここでいいって思った瞬間に心は終わるんだ、俺は死ぬまで終わりたくない、いつだって赤ん坊のように景色を飲み込んでいくのさ、美味しいか美味しくないか、毒か薬かなんてそんなことはどうでもいい、そこに存在するすべてのものを知らなければ本当のことなんか語れるわけがないじゃないか、しかもどんなに頑張ったってそれは、ほんの一部に過ぎないんだ、俺は、たった一人の人間でしかないからね、だから、出来る限り数を増やすのさ、出来る限りの出来事をありのまま詰め込むんだ、景色を分解して、変換して、詰め込んでいくのさ、それは新しい風景になってここにばら撒かれる、そしてまた新しい火が、そしてまた新しい火が、瞬く間に燃え上がって、そこにあるなにかを燃やし尽くすのさ、残った灰は風にさらわれるだろう、そしてどこかに落ちて、新しい何かが生まれる時の贄となるだろう、終わりがないことは時々虚しく感じられる、だけど、腹を決めちまえばそんなこと、意外とどうだっていいとしたもんなんだぜ、立ち止まる暇があるのなら、迷子になったって歩みを進めるべきさ、たとえその先が行き止まりだったとしても、引き返す間に次のルートを思いつくかもしれない、その先に何があるのかなんて、首を突っ込んでみたやつにしか分かることはないんだから。



自由詩 泥の中 Copyright ホロウ・シカエルボク 2026-02-20 10:17:36
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