『風の祈り ― 鬼吉と澄乃』 第一章:空白の村
板谷みきょう

吉が消えた翌朝、村は、なんだか異様に晴れちまった。

昨日まであったざわめきも熱も、
すっかり溶けて空気の中から消えちまったかのようだった。

大人たちは、「災いが去った」と胸を撫で下ろす。

子どもらは、昨日まで投げ合った
石の冷たささえ忘れた顔をして、
ただ村を行き交う。

けれど、澄乃だけは違った。

空白の真ん中で立ち尽くし、
夜になると布団にもぐり込み、
喉の奥に澱のように溜まった言葉を反芻する。

――「もう、来ねぇでけれ」

自ら放ったその一言は、鋭い針のように
胸を刺し、抜けずに深く刺さったまま。

翌朝、ぬかるみに残った吉の足跡を、
誰にも見られぬよう、ぎゅっと踏み消す。

あれは、吉を「葬る」自分自身の手だった。

村の平穏は、沈黙という形をした、
澄乃への緩やかな刑罰のようだった。


散文(批評随筆小説等) 『風の祈り ― 鬼吉と澄乃』 第一章:空白の村 Copyright 板谷みきょう 2026-02-20 00:15:12
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