傾きかけた世界の端っこで
夏井椋也


お気に入りの雑貨屋で
可愛い猫のマグカップを見つけたと
あなたは困ったような眉で
ふんわり笑う

笑うのが苦手な私も
思わず頬をゆるめてしまう
あなたの柔らかな笑顔は
ほとんど魔法

そんなあなたと
おっちょこちょいで真っ直ぐなあなたと
ふたり並んで歩いているうちに
わたしは様々なものの傾きに
気がつくようになった

世界は傾きかけている

目だけが笑っていない女優に
良く出来た可哀そうな作り話に
人々がいっせいに動く度に
世界はますます傾いていく

もしも立っていられないほど
世界が傾いてしまったら
わたしはあなたを守れるだろうか

あなたとあなたの笑顔が
転がり落ちていかないように
しっかりと手を繋いでいられるだろうか

ふいに
あなたが立ち止まる

アーケードの雑貨屋に入っていって
すぐに出てくると
「誰かに買われちゃったみたい」

あなたは困ったような眉で
ふんわり笑った




自由詩 傾きかけた世界の端っこで Copyright 夏井椋也 2026-02-11 09:56:36
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