小説の習作 原稿用紙三頁 #02
田中教平
ユウスケは納豆ご飯をかっこむと、茶碗と箸をシンクに下げて一階、書斎に向かった。
出勤まで後一時間ある。ユウスケは小説の続きを書く事にした。シャワーを浴びていて、髪はまだ濡れていた。
コホンと咳が出る。ユウスケがカナと風邪をうつしあいっこしていたのが先週だ。それが原因で事業所には通所できなかった。今日は行ける。手元にマスクがあった。そのマスクを着けてみると、息苦しかった。
ユウスケはマスクをとり、それをゴミ箱に捨てた。
カナは二階で未だ朝食を摂らずにいた。炬燵で温まりつつ横になっている。最近のカナはよく眠っている。寒さのせいだろうか。寒さで縮こまってしまうのだろうかと、ユウスケは考えた。
又、デェビゴという睡眠薬をカナは摂っていた。デェビゴを一錠にするか、二錠にするかで、カナはいつも迷いつつ、しかし考えて服用していた。
「まあ昨日から充分眠れたかな」
カナは朝になると、決まってさくばんの事を話した。夜、中途覚醒してしまったら、その事を言い、眠り過ぎたなら、眠り過ぎたと言い、小学生のように、毎日、自分の事をユウスケに報告するのは、ユウスケにとって、ちょっとカナは子供帰りしているようにも思えたが、じっくり聞いていた。
今朝はそんな話題もなく、ユウスケがゴミ出しから帰ってくると、カナは二階リビングの炬燵で横になって眠っていた。いつの間に一階寝室から移ったんだ、とユウスケは思った。
「飯、食べるかい?」
ユウスケはカナに訊いた。
「それより、顔、洗わないと、わたし」
ユウスケは、それなら、と自分の分のご飯を炊飯器からよそり、冷蔵庫から、納豆のパックを取って炬燵まで運んだ。
カナは思い出して
「昨日のドライカレーがまだ残ってる!」
と告げた。もう納豆ご飯を食べはじめていたユウスケは
「一人前だろ。それならカナが食べたらいいよ」
と応えた。
こういった朝のあらましを、思いかえしつつ、ユウスケは原稿用紙を埋めてゆく。ユウスケが書いていたものは私小説であったが、果たしてそれが私小説風の、私小説もどきの、なんでもない日常を書いているものであると言われても、反論はできまい。
しかしユウスケは最近の生活、暮らしにすっかり安住してしまって、ちょっと老いた。
なによりなんでもない日常が沸々と嬉しかった。