雪国
月乃 猫




みぞれと呼ぶには、儚い白い粒子
海峡を冬景色にかえる


流木の積もった雪をはらう
 
歩き始めた息子の手は、
疑いを知らぬ 温もりで
もう一人の赤子は、腕のなかで
小さな寝息に
夢のなかを彷徨っている

遠く
灯台のある岩礁に
群れなすアシカは、張り裂ける声を
雪空にひびかせ、海岸までとどけ、

獲物に
黒い背びれをみせるクジラが二頭、
目の前をゆっくりといく
息をつぐ、その呼吸の音は、
確かに生きもののそれで、
冬の 波のない凍てつく水のひろがりに
 鋭角の軌跡を残していく


そこは
白い化粧の森
黄昏れた 淡い陽の光
比重をました 黒い海

誰もが誰もを知る街は、
東アジア人など一人もいない、
存在理由をいぶかられながら、
生きる


温室となした ぬるま湯の島国を離れ、
山を捨て去った
大陸は、
針葉樹の森に覆われ、

振り向かぬように
気づかぬように
泣き顔の 父をあとにした


出会った
男は、雪女の話か、
子供を捨てた母の話か、
異形のものを見る目でも
好奇の眼差しでもなく
まして、哀れみのそれでもない
熱情を宿す目で あたしを
抱きしめた

太い男の腕の強さに 同類の物の怪の何かが
本当にあったのか
だから 添い遂げたのか、
後悔の欠片は、なかった


しばらくして生まれた子は、
男の子で、水を氷に変えることのできない
普通過ぎる人の子 二人目も、
少しの落胆と、安堵の 胸をなでおろす 
ありふれた 家族の暮らしを手に入れた


暑さが厳しくないここは、
あたしにとっては天国にちがいなく、
ありがたい地で、

時に
東から
西へむかう 星の流れに
自然と 整然とあゆむ
運勢を重ね、
大きな力に
すべてをゆだねてしまおうと心をきめる

その先にある 私を待つものを
めざしながら、

冬の夜、緑の揺らめきの影に
表れそうな 母の姿を
遠くに
探しながら、







自由詩 雪国 Copyright 月乃 猫 2026-02-07 19:11:49
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