奔別Ⅱ
伊藤透雪

 日射しが強まり、ポタポタと雪が溶けて
ゆき、ようやく春がやってきた。
窓に打ち付けられた板を父が外したら、
部屋も目隠しを外したように、暖かい光が
入った。
土は肥料の臭いを纏い、
沢の音は大きくなった。

 唐松の茂る黒い山に、木蓮が白い斑点を
なし、熊笹が新芽を伸ばして青々と照り返
す。裏庭のラッパスイセンが黄色く咲いて
いて、里の家々でも咲いて、春が来たなあ
と空を見上げると、雲も光を反射している
ようだ。湿り気を帯びた空気が喉をひんや
りと通り、息を吹き返した山里も緑と花で
溢れていく。

 奔別小学校に植えられたヤマザクラの蕾
が膨らむ頃、入学式に父と一緒に出た。
ピカピカの赤いランドセル、東京の従姉か
らお下がりが来たけど、どう見ても新品な
のが嬉しかった。何より可愛いワンピース。
髪型はおかっぱにされて、ちょっとお姉さ
んになった気分。
スーツ姿の父がかっこよくて、手を繋ぐの
が嬉しかった。

 初めての運動会。従兄弟や叔母さんと
一緒に座ってる父が、ランニングとズボ
ン姿でにこにこしている。
徒競走は三等で、鉛筆が貰えた。
お父さんは速いぞ、と自慢されて悔しい。
親子競走の時に、担がれて一等賞って、
何だか可笑しくて、皆んなで食べるお弁当
が凄く美味しかった。

 八月、七夕飾りの柳の枝に短冊を付けて
紙の飾りもたくさん作った。
輪っかのや、三角の網みたいな飾り。
そして七日、夕方に子ども会の皆んなで
ろうそくもらいの歌を歌いながら、提灯
を持って家々を周る。

ーーろうそくだーせーだーせよー
  だーさないとかっちゃくぞ
  おまけにくいつくぞ

お菓子や、小銭を貰いながら歩いて周る
と、解散。妹と二人合わせると結構ある。
二人で手を繋いで帰った。家では、
父がテレビを見ながらお酒を飲んでいた。

 明くる日、知らない女の人が来た。
絵本をくれた。お化粧のいい匂いがした。
しばらく経って、
おばあちゃんと留守番をした次の日から、
一緒に暮らし始めた。
ひと月くらい経って、わたしは小さい声
で、
おかあさん、と言った。





 



自由詩 奔別Ⅱ Copyright 伊藤透雪 2026-02-06 18:53:03
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