老婆心
やまうちあつし
わたし、おばあちゃん
しわしわの手でゴミを拾って
かさかさの足で猫をどかす
風邪をひいても病院に行かない
薬の方がよくないと知っているから
テレビはつけないことがない
つけないとさみしがるから
20年前
家を流されてしまった
今でも故郷の我が家を夢に見る
10年前
お金をぜんぶ奪われてしまった
今でも犯人の笑顔が忘れられない
そして今
子供と孫がずいぶん増えた
増えたのはいいけど
どれが誰だか思い出せない
ただ皆が
おばあちゃん、と寄ってくるから
自分はそういういきものなのだと
まいにち学習してるだけ
曲がった腰は90度
やけに背中が重いのは
きっと誰かが
荷物置き場に使っているのだろう
まあ、いいよ
この歳になっても役に立つなら
わざわざ地球まで来た甲斐がある
そう
わたし、おばあちゃん
あんたたちだけのでなく
旦那の。
死んだけど。
息子の。
出てったけど。
近所の子らの。
やかましいけど。
隣人の。
いけすかないけど。
ポチの。
手ぇ噛んだけど。
赤の他人の。
話すことないけど。
被害者の。
誰か知らんけど。
異教徒の。
壺買ったから。
あの国のやつらの。
殺したいけど。
この国のやつらの。
産み直したいけど。
ていうか
全部うそだけど
本当は誰もいなかった
本当は何もなかったの
友だちのミミミは
あざやかにいとまを告げた
わたしはようやく
足から根が生え
地球と結婚することに
別に
去るほどのことはない
どこからか
おばあちゃん、と呼ぶ声が聞こえる
気安く呼ぶんじゃないよ
いかにも
わたし、おばあちゃん
生きとし生ける
すべてのものの