奔別
伊藤透雪
漕いで漕いで。ブランコで妹と二人きゃあきゃあ言っている。
高いとこまで漕ぐよ。姉妹で遊んでいた山里の小さな公園の遊具は、
ブランコと滑り台だけ。
公園は枯れた草でぼうぼうになっている。
初夏、庭に群生している鈴蘭がその強い芳香を広げ始めた。
廃校のグラウンドでフランス菊の株が群れになっていて、
モンシロチョウが舞っている。
妹と二人で、隣家の塀に絡ませたグースベリーをこっそり食べた。
まだ酷く酸っぱい。カリンズも酸っぱかった。
廃屋の庭まで行くと、小さな苺が成っていた。
少しだけ甘い。
真夏の山は蒸し暑く、熊笹が所々枯れている。若い葉を抜いて
ブーと鳴らしたり、ポプラの葉を吹いて高音を出したりする。
川に笹舟を流したり、空家の物置を秘密基地にして、川べりで拾った
笛になる石や、砂場で遊ぶプリンのカップを置いておく。
学校で作った花瓶に、フランス菊を飾ったりも。赤土の道が熱い。
家に帰っても誰もいない日、妹の手を引いて一山越えた道を歩き
伯母の家に向かったら、夕方迎えに来た父に怒られた。
トラックの荷台には大きな西瓜が三玉、金印だ。
友達から買ったのだと父は言う。とても甘い、三笠特産の西瓜だ。
山から風がよく吹く頃、川からトンボが飛び始める。
赤トンボ、姫トンボ、車トンボ、空がトンボでいっぱいだ。
畑に立っている竿の先から先へ、羽根を広げて留まっている。
電線にも、電柱の先にも。
目をくるくる回しながら足で洗っているのもいる。
秋の始まり、草むらのキリギリスが喧しく鳴き始める。
まだ残暑が照らす昼間。
涼しくなり始めると、一家揃ってシメジをたくさん採る。
夕方からはコオロギが鳴く。
十五夜には、壇にススキと月見団子が乗せられる。
霜がおりたら、山葡萄を採ってくる。栗拾いも楽しい。
雪虫が飛び、初雪が降って冬がやってくる。
薪ストーブに火が入る。薪運びは私の仕事だ。
時計型薪ストーブと、ペチカに焚べられる薪の火が温かい。
乗せてあるやかんから蒸気が上り、頬も赤くなる。
手をかざすと熱いくらいだ。
デレキで時々掻く薪が弾けている。
雪が積もると、玄関前に階段ができる。雪投げが朝と晩になって、
スノーダンプでどんどん運ぶと、窓が見えなくなるほど高くなる。
キシキシと固まらない雪が降り、吹雪になり、山里はすっかり埋もれてしまう。
初春、川の音が少し強くなり、雪割草が氷を割っている。
ふきのとうが出始めたら、雪が溶けてポタポタと軒から落ちている。
春がやってきた。
父がタランボをたくさんもいできた。
ウドの酢味噌和えや、ワラビのお浸しが食卓に並ぶ。
各家々の庭に花が次々に咲き始め、
山の木蓮が白い斑点を成している。
春が開き輝いて、すっかり暖かくなったら山桜が咲くだろう。