星にならなかった河童 第四章 大雨の夜
板谷みきょう

その年、
雨が止まなかった。

村人が恐れていたのは、
流されることではない。
川底に沈めた重い過去が、
浮かび上がることだった。

「誰かが行かなければならない。」
それは命令ではなく、役割の確認だった。

一人が、橋へ向かったが
誰も名を呼ばなかった。

呼ばなければ、
それは
初めから存在しないからだ。

蔵の奥(目に見えない場所)に
隠されていた重い鉄枷を
両手に提げ(ひっさげ)ていたモノ。

濁流の音にまぎれて、鉄が触れ
低い響きだけが残った。

雨音は、祈りと命令の違いを、
きれいに洗い流していた。


散文(批評随筆小説等) 星にならなかった河童 第四章 大雨の夜 Copyright 板谷みきょう 2026-02-01 12:55:39
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