星にならなかった河童 第二章 河童の噂
板谷みきょう

いつからか、川には
「河童がいる」と言われるようになった。

言葉は、地面から滲み出たように広がった。

見た者はいない。

けれど
夜の川が、笑っているように
聞こえる日があった。
「河童だな」と年寄りが言えば、
人々は安心して眠れた。
河童という名を与えると、
不条理は「いたずら」に変わる。

夜、川面で“チリン”と
金属の音が鳴るたび、
人々は笑った。

それが杭に結ばれた鈴の音だとは、
誰も口にしなかった。

河童は、まだいない。

だが物語が必要な夜には、
確かにそこに“いること”になった。

名を持たぬものは恐ろしく、
名を与えられたものは、
すでに半分救われていた。


散文(批評随筆小説等) 星にならなかった河童 第二章 河童の噂 Copyright 板谷みきょう 2026-01-31 10:55:27
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