星にならなかった河童 第一章 川のある村
板谷みきょう

村のはずれに、川があった。

山から下り、すすき野原を横切り、
村の前で肘を折るように曲がる川だ。

川は澄んではいたが、やさしくはなかった。

洗えるものは、すべてここで洗った。
泥も、血も、言いにくい出来事も。
流れてしまえば、なかったことになる。

人は、ときどき川に奪われた。

理由は決まって“運が悪かった”から。

春のはじめ、年寄りが一人、橋の中央まで行く。
川を見下ろし、黙って戻る。

その年も、人数は数え直されなかった。
数えなければ、間違いにはならない。

ただ、橋の杭の根元にだけ、
村の誰のものでもない古びた真鍮の鈴が、
一つ括り付けられていた。

その鈴は、鳴らすためではなく、
忘れないために結ばれていた。



散文(批評随筆小説等) 星にならなかった河童 第一章 川のある村 Copyright 板谷みきょう 2026-01-31 10:46:28
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