Biometrics
ホロウ・シカエルボク


血の配列を疑い始めたのがいつごろからなのか思い出せない、あまりまともなきっかけじゃなかったかもしれない、古い手紙を読み返すように記憶を辿ったところで、きっとそのころのことを上手く語ることなど出来やしないだろう、地獄の釜に手を突っ込んで手応えを探すような作業だった、その頃果てしなくばらまいた詩篇のことはいまじゃ思い出すことも無い、目指すものが変わった、目指す場所が変わった、誤解を恐れずに言うなら、それはもっと無邪気な理由になった、とてもとてもパーソナルなものになったということだ、本来文章というのはそういうものだ、写経と同じさ、手書きの百枚とプリンターでコピーした百枚じゃまるで意味合いが違う、魂はスタイルを選ばない、それが自分自身の意志で操作されている限りは…他の誰かに見せびらかしたくて書いてるうちは青二才だってことさ、まあ、そういう中で気づきを得る場合もあるから、一概に良くないということはしないけれど―奇抜なファッションをして歌をうたうのと同じようなものさ、こっちにちょっと変わったものがありますよと、声高に触れ回って取り敢えず人の目を集める、それで成功したような気分になっちまう、でも、それは成果では無いし成長でもない、表現とは自身の成長を常に曝していく行為だ、意味の有無なんて語るのはあまり意味が無いことだけれど、俺はそれ以外のものには全然意味が無いと思う、真っ赤なモヒカンで街を歩いたら注目はされる、でもそれは、変な頭をした人が居たよ、なんて話でお終いだ、要はどんな手を使っても、その上できちんと提示出来るものを持っていなければいけないということさ、こういう世界の入口が狭いのは重々承知だ、でも無理に広げても肩を痛めるだけさ、余計なことなんだよ、全部―自分自身に集中するのさ、自分の中から何が出て来たがっているのか正しく知ることだ、いや、なにも明確に認知するということでは無い、それは直感のようなもので構わない、こっちの方に行けばいいんじゃないかな、というぐらいの認識で構わない、後は勝手に作り出すものが語ってくれる…いつまでこんな話をしている?もう俺には他に語るべきものはなくなったのかと時々考える、でもそれは認識違いというものだ、まだ全部書き終わっていないだけなのさ、もしかしたら俺は、つい最近まで書き連ねていた感情のあれこれはもうほぼ書ききってしまったのかもしれないな、無駄話をするくらいなら次を書いていたい人間だからさ、どんなに書いても満足出来ないくらいのものを抱えたがるんだ、近頃はどんな風に書いてるなんて話も毎回バラバラ、昔みたいに一気に最後まで書いたり、かと思えば半分で止めて翌日に回したりね、でも、どちらが正解というものでは無いからさ、実際、区別なんかつきゃしないだろう?こっちは一気に書いたなとか、これは少しずつ書いたなとか…読んでる側には関係のないことなのさ、ただこう…いろいろなセクションを使い分けて書く方が健康的ではある、と言えるかもしれないな、今日はスピードを出すのか、今日は景色を見ながらのんびりと走るのか―そんな感じさ、その日に一番適したものを選択するんだ、それがコンディションのせいなのか、脳味噌のせいなのか、あるいは空き時間の容量のせいなのか、俺にはわからない、けれど、いままでで一番充実しているというのは言えるかもしれないな、音楽を使いはじめたことによって、闇雲なリズムの憧れや、叫びへの衝動なんてものはある程度消化されるようになった、ここに並べられているのはいわばそれ以外の領域で展開されている思考の記録だ、一点集中、たったひとつの火種で最初から最期まで燃え盛る炎だ、俺が何を言いたいかわかるか?何を選択したかという話じゃない、どんな手段を選択したかという話じゃない、最新鋭のマシンだろうが時代遅れの方法だろうがそんなものはどうでもいいことだ、要はそうしたすべての選択が集中する一点があるかどうかということなのだ、誰だってそういう一点の為に言葉を発し始める筈なのだ、新しい服を着て恰好をつけるような目的で書いている人間はどれだけ時が経ったってその程度のものしか作ることは出来ない、方法論じゃない、そもそもそれだけの理由があるかどうかという話なのだ、俺は手書きから始めた、手書きと同じスピードとテンションをキーボードで出せるようになるまでに結構苦労をした、でもいまはディスプレイで見ながら書く詩だって、ノートブックに覆いかぶさるように書いていた時と同じように書くことが出来るよ、それは俺の中にいつだってそういうフィールドに出て行きたいものがあるからさ、だからいつでもこうして書き続けているんだ、結局のところ自分自身が動機に成り得るかどうか、それだけなんだ、そしてそれはひとつひとつの作品として継続され進化していく、同じ文章を何度も書くことで違うものに進化していく、本当に書こうとしているものに近付いていくのさ、脱皮を繰り返して成長していく生きもののようにね。



自由詩 Biometrics Copyright ホロウ・シカエルボク 2026-01-25 22:18:48
notebook Home