うすくなる
山人
存在が薄くなっている、最近そんなふうに感じる。加齢とともになにもかもの熱量が少しづつ失われ、まるで一本の枯れ木の棒になっている雰囲気だ。枯れ木の棒だから水分もあんまりなくて、あらゆる部位がカサカサしてきているし、頭の中の鳥たちは一向に羽ばたこうとしない。
あらためて思うが、かつて自分には過去があったのだなと思う。あまりにもひどすぎる過去だから、糜爛した腐敗物のような出来事をあらためて語る気力すら失っている。
このあいだ、魔が差して料理に使う一滴の白ワインを一口飲んだ。その背徳感は実に甘美なものであり、ここからいくらでも地獄に落ちることなどできると思った。そうはいっても今だって地獄とは言えなくはない。かろうじていつでもどうぞって地の底から手招きだってされてるんだから。
髪の毛が薄くなるということはつまり、自分自身も比例して薄くなるってことなんだと最近思うようになった。薄くなりたくないと必死にみんな生きようとしている。それが酷く哀れに思え、気の毒に感じる。そして若者たちは自分らは老いないとでも思っているのだ。
薄くなって、もう透明になりかけているのに、父はまだ魂があふれている。自分はもう父には勝てないし、父の年まで生きられないだろう。願わくばそうあってほしい。少し年の離れた兄です、そういったらもしかしたら信じる人がいるかもしれない。
どのくらい生きたら死ねるのだろうか。死ぬまで生きたら死ぬのだろうか。でも自分はまだそれができない。たぶん、あっ、あれ?死んでる!って思うまで生きているんだろうと思う。