Duple Dimension
伊藤透雪
二人で互いに微笑みを並べ、向かい合う。
囁き喜びを重ねて浸る夜の背に、翼をひろげ世界が二人の瞳に輝く。そして安らかな眠りを。
*
髭を剃る手が鏡に止まり映った顔が歪んでいる。これは誰だ?と振り返るが誰もいない。いるはずもない、私は独りだ。
洗面台の後ろは、うつろな薄明かりがぼんやりしていて、覆い被さる影の名を呼ぶのさえ恐ろしい。なんなんだ。
きれいさっぱりと髭と共に洗い流せば、とにかく足元は崩れることもないだろう。
今日は始まった。窓の外は曇り、
*
あなた、あなたと呼ぶ声に飛び上がる声を出したとき、傍らで心配そうなまなこが二つ。
「うなされてたわよ 大丈夫?」
ああ、何か重たい鎖が胸を押しつぶすようだったが、
「大丈夫だよ。」
カーテンの隙間から明るい日が射している。朝ご飯はできているわよ、と妻の声が耳をなでる。
もう少ししたら起きよう、
*
昨日のことが思い出せない。
今を生きるにはそれほど大切ではないが、何か大切なことを落としてきた気がした。
ーー影が忍び寄るーー
生きるだけの最低限 、見えない牢獄の壁に染みを作り脂が浮いている。私を守っているのは暗がりの銀色なひかりの月だ。
夢を記録しようと思う。何か落としてきた欠片でも見落とさないように。
*
サイドテーブルに置いた筈の日記帳がない。ここはどこだ?
「あなた、起きたのね。」
と声が聞こえる。誰だ?
見知らぬ部屋に知らぬ女、
見たとたんに視野が裂けて見えなくなった。倒れる、と思った一瞬歪む顔が見えた気がーー。
*
*
日と月の狭間の小さな結節点で、女の影が浮かんでいた。南極の磁場で発光するオーロラを、観測する探査船が発見した。
古代のホモ・サピエンスと研究者たちは特定した。いつ死んだのかわからないほど、その体は生々しく浮かんでいたという。眉間に深い皺を寄せたままで。
それは、テラ探査船コリドーが最初に見つけた謎の古代生物であった。