The Blue Synapses
伊藤透雪
俺の地平が畝っている
どこまでも起伏のない地平ながらも
無軌道に畝っている
どこまでも透明
に限り無く近い青の地平
立ち止まって下を見ると
どこまで墜ちるかわからない暗闇
薄く青みがかった透明な地平
は危うい薄氷だ
恐怖感など湧かない
ただ畝りに目眩がする
遠くは霞んでいる
不安も苦しみも悲しみも
怒りも
喜びさえどこかに忘れてきた
俺の感情は知覚されない
手のひらには
枯れて縮れた薔薇の花びら
純白だったものが今は
かさかさに茶色くなって艶も失っている
握りしめたら崩れてしまいそうだ
無軌道な地平をただゆくのか
後ろを振り向いてもあるのは
歪んだ記憶だけだ
無感情という真っ平らな状態で
俺の地平はまだ青を求めている
ふと仰ぎ見ると雨が落ちてきそうな空模様
群青の刷毛跡が暗い
ちりちりと頭上から落ちてきた痛み
は右目を潰そうとする
痛みだけは感覚に上がってくるから
まだ生きている、と知覚する
俺は痛みに耐えながらもまだ青を求めている
地平の下から上がってくる虚しさは
すぐに霧散するがそれは
地平を俯瞰する翼を忘れたくないからだ
ゆく先の濃霧も足下の暗闇も無関心でいるなら
たとえ無軌道でも
たとえ平坦でも
俺の地平を見つめて歩けるだろう
くらくらと目眩が続き
危なっかしい足取りで
背中を丸めながら俺は一人で生きていく
歩くのは生きることだ
あまり止まりすぎると
地平の薄い層から落っこちてしまうだろう
落っこちてはいけないと
頭のどこかで知覚した
--2011/5/14初出、本稿改作--