鰓
あらい
紫陽花のかたわらで
ハコニワのようにおきてしまう。
灯台はまだ点っていない
午睡の窪み。ぼうっと燃えている。燃えながら、
消灯された都市模型が。ひとつも やけない
そこではなく、そこではなく、と語るより早く
沈黙より濃く、指先でつつくと あの奥
さらに その奥、しわざのように なおさら
笑ってる垂直に吐きだされるくしゃみが
ちり、って湿地でラッパを吹く
雨が降りますようにではなくて雨が死にますように
ときどき粘りつく貼りつけてくる喉元に
くゎり、くゎり、過する。それが、最後の交信だった
にもかかわらずにもかかわらず私は存在しないが
存在しなさもまたこんなにやわらかく耳たぶのうらで
ちりちりと舞う「さわらないで」と言いながら
さわられたものだけが あたたかい喉に、
結露する。つめたい「みたい」という
延焼。濡れて乾き、乾いて濡れる
あらゆる凹凸を歩いている卓上図に、
だれが湿地にラッパを埋めたの?
いまだ息をしている気がして「きこえるか?」と
問いかけてくる斜光とわずか温度だけが溺れた順に
気配とそっくりな ひかりが一拍ごとに
輪郭を ずらし ながら くちばし を もった
すべての水位を 決めていたかのように
〝振りかざした 五秒しか とどまれない〟ひとの
そこに、海星ヒトデの口吻を観測する 祝福のよう
静かに。ただの呼気と水準器の誤差
渇いた寝返り裏切り脈打つ午前二時の
遠さ 。 遠さ。遠さ 。
還らない、還らない、還らない
くる 、くる 、 くる 、
午前四時の皮膚片が死にきれずに
しかし溶けかけた包装紙になり果てる
読点が沈む。句点は浮く。鳥が一度だけ止まる
だからしずかに 傾ぐ。いや、そういうことではない
火種を選ばない背後から 「おまえは知らない」
ぬるく、ひらく、うそ。ねぇ それは
〈ひび割れた報酬を嗅ぐ、コバルトの獣〉
ヒンジから覗いた瀰漫の始祖たちが倒れている
そこのそこのそこのほう (古びた玩具箱の
泡沫紀行はうなじのあたりで氷点下にむかって
水温を忘れた歯車と背負って透明な手袋としって
動き出す。ガラスを吸ったみずうみ。――歩いていった!
泡を踏む。踏む。踏む 踏む、踏。踏 ふ、
しわだらけの鉄と震えきる直前に――立ち上がる、の、では、
なく ゆらめく コンクリートと あの あせた日向に
仮留めされたほつれから、潮が満ちたまま、めくらず
日付の、鉛筆の、芯がかろうじて 稜線から引かなくなった
音が 欠けたら、夜の かたまりを、指が 溺れ、雨は死ぬ。