我を忘れない
紀ノ川つかさ
その国の子供たちは
大笑いも大泣きもしない
嬉しい顔や悲しい顔だけはして
黒い瞳はただ開かれている
豊かな表情を許されていない
かわいそうな子供たちだと
そんな陰口も聞こえてくる
そこは自由のない国に違いないと
しかしその国にはかつて戦争があり
そこらじゅう火の海になった
なぜ戦争になったかというと
大人たちが望んだからだった
そして戦争が終わって
生き残った大人たちは
口をそろえてこう言った
国が勝手に戦争を起こした
私たちは戦争なんて
望んでいなかった
そのとき子供たちは見抜いた
大人たちの嘘と身勝手を
子供たちは何をしていたろう
よく笑いよく泣いた
大笑いして大泣きした
子供たちの世界があれば
それでよかった
我を忘れていっぱい笑って
我を忘れていっぱい泣いた
その間に大人たちが戦争を望んでも
そのことに何も気がつかなくても
子供たちの世界があれば
それでよかった
しかしそれは間違いだった
もう二度と
二度とそんなことはさせない
その国の子供たちはどんな時も
たとえ穏やかな風が吹き
色とりどりの景色に囲まれ
無邪気に遊んでいるように見える時も
我を忘れない
我を忘れないで
大人たちを見ている
大人たちが間違った方向に
進んでいかないか
戦争は恐ろしく
大人たちは恐ろしい
だからもう
我を忘れない