たとえ食らい尽くしても満たされる事は無いだろう
ホロウ・シカエルボク


俺の細胞が新しい刺激を求めて蠢き騒めくとき俺はそれを自分自身で作り出すことが出来る、外にある何かを利用したり誰かを引き込んだりしようなんて考えない、俺は自分のイマジネーションを振り絞ることにしか興味が無いのさ、ずっとそうやって様々な触角を手に入れて来たんだ、ヘルプが必要な場面なんか一度だって無かった、結局のところ一人に戻ってしまうのはそれ以外何も必要が無いからなんだ、これに関しては一人で充分、必要だと思うものはすべて手にして来た、これまでもずっとそうだし、これからもずっとそうだ、何かを始めようとするときに理屈が先行するような人間じゃない、頭を真っ白にして、整理する前に指先を動かすのさ、たいていのものはそれで出来上がりなんだ、少しでも考えることを必要としたなら、それは頭で考えただけのものになってしまう、理路整然とした見栄えのいいトラディショナルな形式に終始しただけのものは良く出来ていても面白くない、俺はそれが表現の本質だとは思わない、いつだってそれは身体の中に留めておくことが出来ない激情の為に用意される場だったはずさ、魂をどこまで引っ張り出せるか、どれだけ色濃くそれを焼き付けられるか、そういう場だったはずだ、俺のやることはいつも同じだ、言葉だってそれほど変わりはしない、それでも必ず何かを手に入れることが出来るのは、それが瞬間の記録であることを理解出来ているからだ、一秒の中にどれだけのものが含まれているのかって話なのさ、俺はそれを定義したりしない、俺はそれを導いたりしない、水は勝手に流れる、勝手に流れた水が勝手に作るものを人は自然と呼ぶだろう、俺が描きたいものはそれと同じなのさ、身体は地球だ、人の身体の中には地球がある、海があり、大陸があり、生きものが居る、水は循環し大地を潤す、あらゆる機能がそれによって生命を維持している、でも、ひとつ足りない、そうだろ?ひとつ足りないんだ、それは太陽の光だ、その代わりをするのが表現活動だ、俺が詩を書くことによって俺の体内に光が当たる、それは隅々を満たし、穢れを溶かす、そうしてまた従来の動きを取り戻すんだ、人間の身体は心の持ちようによって変化する、それは確実にそうさ、感覚が鈍ると肉体だって鈍って来る、受信能力の高いアンテナを維持したいならシェイプするべきさ、そうしないと何かをキャッチしても正確に伝わらなくなってしまう、通信障害が起こったりするんだ、だから道は整えておかなければならない、肉体だけ、精神だけが高く在ったところでそんなものは長く続いたりしない、すべてのものを上手く流すためには、すべての通路を綺麗に整えておく必要がある、俺もまだそれを完璧に出来ているとは思わないけれど、そのへんの連中よりはよっぽど上手くやっていると思っているよ、考えてみてくれ、片方からしか音が出ないヘッドホンでずっと音楽を聴いていたくはないだろ?俺が言っているのはそういうことさ、人間的成長とか、技術の向上とか、そういうものを求めているわけじゃない、そういう成果を並べ立てて満足したいわけじゃない、そもそもこの欲求が満足したい為のものなのかどうかすら怪しい、それはただただ、求められるだけのものなのだ、喉が渇けば水を求めるみたいに、魂がただそれを求めているだけなのだ、それ以上の注釈が必要なのか?俺はもうそれでいいと思う、その欲望さえ理解していれば他にどんな項目も要らない、求められたものを差し出すだけだ、根源的な欲望を正しく受け止めさえすればどこまでだって生きていける、俺は早くからそれに気づくことが出来た、何かの力を借りて歩いている振りをしなくても済んだ、どこに進めばいいのか、何を求めればいいのか理解出来ていた、水は勝手に流れる、ある程度道が出来てしまえば必死になってその行方を追うことも無い、ゆっくりと大きくなっていったその流れは穏やかに流れている、俺は焦ることなくその側を歩いている、細く、激しい流れは見る側に強い印象を与えるのかもしれない、でもそんな流れには岩の形を変えることなど出来はしないんだ、水は流れる、いつまで続くのか?あるいはいつまで続ければいいのか?いつかはこんなことをすっぱりやめてしまう時が来るのかもしれない、でも俺には自分にそんな時が訪れるとは思えない、多分最期まで続くのだろう、俺は躍起になってこんなことを書き続けるのだろう、その時流れは海に辿り着くのか、そこからは漂うことを覚えるのか、それとも地底に流れ込むのか、ここで終わりというものがないから夢中になってしまうのかもしれない、今日の陽が沈みかけている、俺は窓の外からやって来る新しい夜のことを思う、夜に生まれたものは夜に依存しようとするのだろうか、朝に生まれたものは朝を愛するだろうか、それともそんなものはなんの関係も無くて、ただ入口として存在しているだけのものなのだろうか、夜が来る前に書き終わらなければならない、明日にはまた新しいものを書き始めなければならない。


自由詩 たとえ食らい尽くしても満たされる事は無いだろう Copyright ホロウ・シカエルボク 2025-12-14 17:52:36
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