陽気な男
ただのみきや

ものごしもやわらかに
巣だったばかりの雀でも見たか
いま笑みがよぎったような
そんな口角 会釈して通り過ぎる
男の 三歩後ろをいつも悲しみがついて歩く
若いころ旅先で棕櫚の並木を初めて見た
愛は淡雪のようで喪失ばかりが眩く
いつまでたっても記憶は等距離のまま
光と影を濃く際立たせるが
それも反芻されることで油絵のように
何度も上から塗りなおされた
未完のままのイメージなのかもしれない
会社の健康診断の結果を開いて見たことはない
余命宣告に憧れを抱いている
これからつもるであろう雪を思う
冬はきらいだが春ほど憎くはない
朝は祭りの日のように
夜はパーティーの帰りのように
いつも酔っぱらっている飲んでも飲まなくても
いつも夢の中 眠っている時以外は
男の三歩後ろをいつも悲しみが
少し離れて死神が
見守るようについて歩いている


                (2025年12月6日)







自由詩 陽気な男 Copyright ただのみきや 2025-12-06 10:17:46
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