赤鼻の国語教師
室町 礼

わたしは戦後生まれの団塊世代です。
戦争の爪あとが残る京都市内で生まれ両親は貧困に打ち砕かれて
わたしを京都の孤児養護施設に預けました。
その後、両親とは会っていないので記憶にあるのはとにかく
その施設に捨て置かれてゆくときに泣きじゃくったことだけです。
大声で泣いてわめいて置いていかないでと両腕を抑えられながら
必死で振り払ってすがりつこうと泣き喚いた記憶だけ
が今も残っています。
その孤児養護施設では女の子も含めて五十人ほどの子を
もと警察官の九州出身の僧侶が私費で面倒みていました。少しは
市から補助金が出ていたかもしれませんが基本的に個人の財産を
投げうって孤児養護施設を運営していました。
それがために非常に貧乏な養護施設で、三食のご飯といえば一番
いいときで月一度のサバの煮物、普段は大根二切れほどの煮物が
夕食に出され、朝と昼はご飯と味噌汁だけでした。
学校(中学校)に行っても図画の時間に絵の具も筆も持っていない
から皆が絵を描いているときには、ただ、黙って座っていました。
それから体育の時間、体操帽を買えないのでいつも帽子を忘れた
ということでもとサッカー選手だという体育の教師から容赦なく
制裁(ピンタ)を受けていました。いまでは生徒へのピンタなど
大問題になるでしょうが戦後の昭和時代にはまだそういうことが
行われており、わたしは少々、悔しい思いをしていました。
わたしの中学一年のときの教室の担当教師は国語の先生で、四十代の、
赤鼻にメガネをかけた小太りのおじさんで、噂では修学旅行の引率に
出かけた東京の旅館で酒を飲みすぎて醜態を演じたこともあるという
ことでしたが普段はとても優しい先生でした。
施設では夜になると勉強などできず皆が大暴れするので睡眠不足が
続いていました。あるときホームルームが行われている教室で
わたしは不覚にも机にうつ伏して眠りこけてしまいました。
そして
目が覚めるとみながわたしの方を向いてにこにこしながら拍手して
いたのです。先生は黒板にホームルームで決まったことを
白墨で大書していました。
○○くんが教室で眠っているときにはだれも邪魔をしないように。
そういうことがみなの賛成で決まったというのです。
わたしは恥ずかしいやら、うれしいやら、(それはあまりにも行き過ぎ
だろう、わたしを特別に見過ぎだろう)という反発もありましたが、
でも、やっぱりみなの気持ちは素直にうれしいし、先生にも感謝しました。
もちろんその決定に甘えて眠ることはしませんでしたが、
今なら、こんなことはあえりえないでしょうね。
規則を厳守するなら先生から外へつまみ出され、真面目な同級生から糾弾され
るのかもしれません。しかし昭和のあの頃は先生も生徒もみなやさしかった。
規則や規律は目的ではなく手段である。目的にそわないなら無視することを
ちっともいとわなかった。
ところがしばらくして赤鼻の国語教師は校長から呼ばれ厳しく叱責を受けた
そうです。そのような決定を教室で下し、規則、規則を捻じ曲げることは、
学校の体面上もよろしくない、ということでした。教育委員会へだれかが
訴えたのかもしれません。
赤鼻の国語教師は「規律や規則は、その成員(生徒)の幸福や成長を目的
として存在すべきであり、成員よりも優先されるべきではないと」主張しま
したが、かつての修学旅行での飲酒による酩酊を理由に国語教師をやめさせ
られるまでのおおごとに発展しました。
現在、規則や規律をふりまわして姑息かつ陰湿にだれかを攻撃する者がいる
やもしれませんが、わたしはそういう人たちを憐れみます。この息苦しい
社会がそういう人を生み出し、豊かな人間の在り方を歪めている。おそらく
その人たちもこの病んだ社会の犠牲者なのでしょう。
人間は規則やルールが目的で生きているのではありません。
現実社会ではそういう厳格なルールが必要悪でしょうが、ネットの表現投稿板
では規則の弾力的な運用がなされることを、むかしの赤鼻の国語教師の気持ちに
代えて、あらためて皆様にお願いしたいものです。

先日、花緒さまが運営なさっておられるCreative Writing Spaceという投稿板で
「中田満帆事件」というものが起きました。
これはわたしも見聞していましたが、ひどい出来事でした。
中田満帆さんがある方の投稿作にだれがみてもふつうの批判をしただけにもかか
わらず
運営の花緒さんから即座にマナー違反ということでアク禁にされてしまった事件です。
わたしはこの無茶苦茶な運営ぶりに驚愕しました。あり得ない話です。
中田満帆さんのコメントは以下のような短いものでした。

  残虐性というのは少年期の特権のようなものだとおもう。
  大人がいたずらに振りまわすのはどうかとおもう。

このコメントだけでアク禁です。笑 しかもサイトを見ることも抗弁する
ことも許さぬ問答無用の決定でした。
このコメントを付けた先の投稿作品はこれです。
『凍える蝶』桐ヶ谷忍
https://creative-writing-space.com/view/ProductLists/product.php?id=1863

この作品に中田満帆さんは上記の程度のあたりまえのコメントをしただけなのに
運営の花緒さんは以下のような暴言を吐いてアク禁にしました。

  花緒
  ファウンダーの花緒です。
  あなたは黄色のサイトの運営に近いところで活動を続けている方ですよね。
  そこをいられなくなって活動している人たちのところに態々きて、
  しょうもないジャブを打てる立場にはいらっしゃないかと。
  次何かあれば一発でブロックし、お引き取り願うつもりです。

つまり「黄色いサイト」(ビーレビのことです)に近いところで活動している
から、という理由で(規則やマナー違反を盾に)中田さんをアク禁にしてしまった。
異常としかいいようがない。わたしはCreative Writing Spaceに入会したばかりで
したが、あまりの異常ぶりに即、作品を抹消して引き上げました。
これはね、真面目な気持ちで投稿板に作品を投稿したりコメントする人への裏切り
です。ビーレビの関係者とつるんでいるからという憎悪を解消するため
マナー違反を理由にアク禁にしたとしかみえない。

   残虐性というのは少年期の特権のようなものだとおもう。
   大人がいたずらに振りまわすのはどうかとおもう。

これのどこがアク禁にするほどのコメントなのか。
実はわたしも『凍える蝶』桐ヶ谷忍を読んで同じことをコメントしようと
していたのです。こんなことでビーレビ関係者とつるんでいるというデマを
もとにアク禁にされるなんてありえない世界でしょう。
しかも桐ヶ谷忍という人物はこのむちゃくちゃな決定をよろこんで、花緒さんに
感謝している!
 桐ヶ谷忍
 花緒さんへ
 先ずはお礼を。
 ありがとうございます。
 間に入っていただいて感謝しております。
 また、ブロックの方針に対して私は賛同している旨、お伝えしておきます。

規約や規律やマナーを凶器のように振り回しふつうにネット投稿板に参加した人を殺している。
田中満帆さんはこの出来事に相当に傷ついている。そのことはしばらくXで悶々としていた
ことからもわかる。
そういうことに無自覚な人たちをわたしは詩人とは思わない。
類さまも規則や規律が大事なのでしたら、いまもご活躍中のこのCreative Writing Space
で存分に羽を伸ばされたらいいと思います。
しかし類さまがCreative Writing Spaceが好きでもあのサイトの異常な規律、マナーの押し付けには
細心の注意を払っていただきたいものです。そうでないと硬直して陰湿な、
規則規律マナーという凶器をふりまわす人たちが増殖してサイトがCreative Writing Spaceのような十人ほど
の常時投稿者のオナニーの場のようになりかねないと心配します。
現代詩フォーラムを手本にしましょう!



散文(批評随筆小説等) 赤鼻の国語教師 Copyright 室町 礼 2025-12-01 07:03:39
notebook Home