償いの刑事コロンボ
菊西 夕座
詩は書かれなかったのではなく抹殺されたのだとしたら誰がみつけてくれるだろう
ということで刑事コロンボが呼ばれてさっそく詩の埋め合わせをはじめることになった
まず机の引き出しをあけ、つぎにメモ帳をとりだし、ペンがないことに気づいて頭をかく
これらが詩句になるためには単なる羅列ではなく生きた言葉として結ビつく必要がある
そこでコロンボ警部は私の胸ポケットからペンを拝借し、メモを書いて、引き出しにしまう
これによってペン、メモ帳、引き出しの3点が強く結ビつき、共犯関係という絆でヒっつく
机は押収され、私の手元にはペンが残り、コロンボ警部のポケットからは葉巻がとりだされる
私はペンを口にくわえ、言葉をのみこむかわりに、もうもうと煙をはいてコロンボをたきつけた
すると警部は葉巻をくゆらせて、巧みに言葉を吐き出すと、一片の詩が編まれてゆくのがみえた
その詩編はたしかに私が見殺しにした言葉たちであり、私の目に沁み込んではからずも咽ばせた
そこでコロンボ警部が机を戻すように指示すると、引き出しの紙片が詩編に変わり果てていた
私の口からペンをひったくった警部は、詩編のインクとペンのインクが一致することを皆に示した
それからこの詩編は私が書いたものに違いないが私には詩才がないから仔細はわからないといった
ただ仔細がわかるのはペンの持ち主であるアンタしかいないといって私にペンを返して去っていった
去り際にポーチを降りると薔薇の植込みから月明かりが葉間隙をついてポケットに差し込まれた
ただ返されたのが葉巻であるところを見ると、私はほっとして、火をつけないまま机にしまおうとした
するとやっぱりアンタは言葉に火を付けないで見殺しにするわけかといって警部が暗がりから現れた
つかつかと舞い戻って机の引き出しから巻いた葉をひろげていくと最後の一句はすでに言きれていた