ヴィルヘルムの鐘
洗貝新
その日レマン湖畔の夕暮れは
満月を覆い隠していた
暗い鬱蒼とした雲の翳りが
静かな湖面を映し出していた
「みんなで1つずつ怪奇譚を書きましょうよ」
11月の侘しい夜
メアリーシュリーは突然バイロン卿に向かって
こんな風に切り出した
少し口元を緩め
あくまでも平静な顔で
「そうだな、分断を避けるには他人の血をのむ覚悟がいる」
眺めていた書物から眼を放すと
この老獪な詩人は顎を撫でながらそう言った。
生まれたての羊は白い手脚を機械に動かされてみせる
耳で聞き分けるその匂い
身体中を切り刻まれた大男が
夜の街の通りを支配する日も近かった。
倫敦から海を渡り
国境を越えて東欧州に向かうには
密漁者の目線がいる
金曜日の夕暮れ
教会に掲げられた
鳩の銅板が揺れる
満月になれば
また狼男が吠えるのだろう
今日も和解の祈りを捧げる。