真夜中の産物
ホロウ・シカエルボク
残虐な殺戮のイメージはいつだって俺をほんの少し冷静にした、それが俺にとってどんな意味を持つのか俺にはわからない、それはずっと俺の中にあったし、時々はグロテスクに蠢いたりもした、挑発的なカラーリングで脳細胞が刺激されて眠りを妨げるくらいの喧しさだった、真夜中に見知らぬ電話番号から着信があった、興味本位でコールバックするほど愚かでもない、こんな時間に他人の電話を鳴らせる人間の心理というのはどういうものだろうか?俺には想像もつかなかった、俺の思考の及ぶ領域ではない、俺はそれについて考えることを止めた、イメージはおそらくそのままの意味ではない、一人でも多く殺すべきだとか、そういう…そういう領域を意識しろということだ、俺はそう解釈している、まだそれが俺の生活になにかを及ぼしたことはないし、なにかしらの障害となったこともない、道端の花みたいにただそこにあるだけだ、道端の花と違うのは居なくなったことがないというところだ、枯れて散ったり、踏み潰されたりすることがないということだ、イメージを抱き続けることで起こる変化というものを自覚したことがない、もしかしたらそれは俺を動かすためのものではないのかもしれない、美術館に飾られた絵画みたいに、自分がそこでそれを眺めているわけを問うためのものなのかもしれない、いや、これも違う―それは額縁の中に収められているわけではない、明確にこれだというビジョンを持ってはいない、だから俺はそれをどこかで持て余しているのかもしれない、違和感を抱き続けているのかもしれない、時計の針は進む、起きていればこうして存在を問い続けるのには向いているくらいの時刻だ、思えば俺の思い出というのはそんな時間に起こるものばかりだった気がする、人生の半分くらいはまともに眠れなかった、選んで眠れないのか、ただ眠れないのか、それすらもわからなかった、だけどそう、そんな時間にこそあれこれと書いていたような気がする、もちろん、昼間にだって書いてはいたけれど…考えてみればいつでも、真夜中に向けて書いていたような気がする、真夜中にそれを自分自身の最奥へと落とすために、飲み込むために書き続けているような気がする、真夜中はそれ自体がたったひとつの詩だ、俺はおそらく眠れなかった頃に、そいつの声を聞いていたんだろう、だからたとえそれが晴れた青い空の下でも、俺の言葉は真夜中に向けて綴られる…真夜中に向けて生み出されていく、窓から見えた暗闇の中に、何かが隠れている、無視することの出来ない何かが暗闇の中で俺のことを見つめている、もしかしたらその視線の在り方こそが、俺の眺めているイメージとリンクしているのかもしれない、真実や真理はいつだって残酷なものだ、だからこそ真なるものなのだ、それは必ず追い求めることでしか手に入れることは出来ない、ただ生きているだけの現実など本当はリアルとは呼ばない、リアルとは自己探求の先にあるものだ、ただそこにあるだけの現実は現実でしかない、視認するのみでいい真実になど何の意味も無い、それが必要なのは横断歩道の信号を確認する時ぐらいだ、リアリズムとは短絡的に現実を受け入れるということではない、そんな場所にはどんなイズムもない、現実が変われば追随していく連中の真実も変わる、そんな場所にはどんなイズムもないんだ、真実は変化し続ける、留まることがない流動的な現象だ、それはいままでにも何度か書いたことがある、けれどその根本にあるのは自分自身の変化でなければならない、そこらの道にゴミが落ちているとかなくなっているとかいう程度のことではないのだ、見たものを見たまま言葉にすることに時間を費やすなんて馬鹿げてはいないか?それはただそういうことが起こっているというだけのことに過ぎないのだ、ああ、そうか、俺はいま初めて気づくことが出来た、それは真夜中に向けて綴られていたわけではなかった、それは俺自身を見つめる目がそこにどんな変化があったのかを語っているに過ぎなかったのだ、それを真夜中だと勘違いしたのはおそらく、余計な現象が存在しない状態が真夜中の静けさと酷似していたせいだ、感覚的にそれは真夜中の空気に酷似していたのだ、俺は真夜中に生まれる、俺は真夜中に向かう、俺は真夜中に求める、俺は真夜中の産物だ、俺は真夜中を語り続けていく、それを存分にやって初めて、太陽の下で静かに呼吸を繰り返すことが出来るのだ、つまりそれは完成度ではない、つまりそれはいかに多くのものを吐き出したかということでもない、つまりそれは幾つの言葉を使ったかということでもない、つまりそれは真夜中であったかどうかということなのだ、真夜中に目を見開くように、真夜中に耳を澄ますように、ひとつひとつの言葉をしっかりと発音するみたいに、並べることが出来ているかということに他ならないのだ、物事が静まり返る暗闇を待っている、だから俺は太陽の光について誰よりも深く感じることが出来るのだ。