むねの奥がじーんとする
百(ももと読みます)
もうどこにもいないとおもいました。それでも、きちんと生きています。
お部屋からおそとにでると空気の甘さにびっくりするようになりました。吸ったあとに吐く息が甘いのです。気だるさで溶けたソフトクリームみたいな感じ。
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この街の図書館の角部屋には市民の作品が展示されているスペースがあって、いまは木材のボードがむきだしとなり、殺風景な均一空間にひとり座っていられる心地のよさで、なんだかむねがいっぱいです。
館内でながれるオルゴールの音に耳を澄まします。誰もぼくのこと気にしていません。いらないもののいなくなったながれのなかで、きっと、ぼくもいなくなってゆくのです。
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この場所に、ぼくはいなくて。それでも、もっといてくれて、きみがいて、あなたもいて、ありがとうって、土曜日の図書館で数学の本をお借りしました。
曲線を描いた壁と天井との淡いや本の国へと駆けあがってゆく子どもたちのくつの音。時計の針は、もうすぐ四時をさすところで、ぼくは地味で、可愛そうなくらい、虚無で無垢でいなくて暗くて笑っていて。
なにもないよりなにもないくらい、なにもなくて。生きて生きて生きて、いいなあって、いないいないより、生きてっていいよなぁって、目蓋を閉じたり開けたりして、なにもないまま過ごしています。
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むねの奥がじーんとする。センチメンタルなながれをとめるな、ぼくは最後にいったりたい。