茜の五重の塔
秋葉竹
車を走らせていると
だだっ広い芝生の平原にすっくと
黒い五重の塔が建っていた
ちょっと気になって
駐車場を探して
その五重の塔をみにいった
想像どおりの大きさで
みあげると
沈みかけの茜の夕日を逆光に
荘厳な感じさえ漂う姿
ふたりでブラブラ歩いていると
四人連れの家族に
「写真を撮ってくれませんか?」と
スマホを差し出された
「いいですよ」とやさしげに答えた
むかしからそうだ
ひとに道を聞かれたり
ひとに行きかたを聞かれたり
ひとに時間を聞かれたり
ひとから声をかけられることが多い
きっと無難な真面目なひとにみえるのだろう
そんなときは
できるだけやさしげに答えることにしている
一期一会とか
ちょっとだけ仏教的かな
で
写真を撮ったのだが
あとから気づいたのだが
そこは紅葉の木の下だったのだ
五重の塔を一周しているあいだに
気づいたのは
最初写真を撮った場所は逆光で
紅葉の赤がかげっていたからだろう
瞳を染めあげる真っ赤な紅葉
を目にしてふと想ったのは
さっき撮った写真の画像は
紅葉を意識して撮っていなかったなぁ
ということ
どんな風に撮れていたかなぁ
ま
もう終わったことだから
今更わたしが見直すこともできないし
どうしようもないんだけどね
ふと
気づいていたら
紅葉を多めにと構図を考えて
撮ってあげていただろうな
と想ったってだけのことなんだけどね
瞳を染めあげる真っ赤な紅葉が
夕風に揺れているのをみて
そのことを隣のひとに話してみると
すこし笑うそのひとの笑顔も
茜色に染まっていて
ひどく綺麗だった