原爆息子
あおば


                      改04.05.16

原爆が落ちていらい
腹が立ってならない

土の色をした指が嘆く
野菜クズを畠に蒔いてヒマをつぶす晩秋


巫山戯た奴らに一発お見舞い
そんな文句も納屋にしまって
灰のような
冷たい雪が降ってきたから
風が吹かない街角で(あったかい)天丼が食いたいと思う

左から自動車
ハンドルを切り損ねてゴミ箱にぶつかる
切り損ねるたびに道路が凍ってゆくから
使わなくなったラジカセを売りにゆく
ケータイの時代には
車もラジカセも
時代遅れなのだと
信号機のない交差点を渡ってゆく

白い杖をついた青年が
進軍ラッパを吹くたびに
装甲自動車に轢かれる

血の色は赤だが吸い込まれて
いつもの土の色に変わる

死んでもラッパは離さない
のではなくて
離せないのだと
死後硬直の高みに立って
物を言う人たち

ふたたび起こる砂けむり
(大空の騎兵隊に囲まれて)
ひらけゴマの呪文を忘れ
立ち往生する戦艦ヤマト

水底に眠るたくさんの英霊が
見守る中で
(宇宙船)コロンビア号は静かに燃えつきた

議論にも始まらないことを議論するので
血の色は変わらないまま
農家のお上さんは
黙って手の甲の汗を拭う

納屋の内では原爆のような息子が一日中逆立ちしているから
腹が空いても帰れない





自由詩 原爆息子 Copyright あおば 2005-06-03 00:58:52
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