つめたいくま
はるな


わたしがここで話すのは、木の実をたべ、透明の毛をもち、草にねむるつめたいくまたちのことだ。街に降りた熊たちの、(淋しい淋しい)という餓えた声に今日も胸をいためているくまたちのことだ。
たしかに秋がどんどんみじかくなって、いつもだったら透き通ってひかる透明の毛も、こんなにざらざらと荒れて鈍色になってしまった。でもまだ風が吹きぬけば向こうがわの湖がみえる。つめたいくまたちは少ない実を、つぎの誰かのために、もっと少なく食べる。もしかしたら丘のほうの獏たちが食べるものに困ってここまで流れ着くかもしれないし。あるいは、そこまで考えていなくて、単なる習性として。長すぎる夏を越えた草はいつもより固くささくれて、でもやっぱりそこで眠る。ときどき紫いろの、なんという名前かはわからないけど、きれいな花をむしってきては飾ったりもする。秋のはじめにあらわれるつぶつぶの紫いろのあの実は、かわいらしいがかたくてまずい。ばらばらばらばら、木から毟るのだけがたのしい遊びだ。
そのつめたいくまたちが、長い眠りのための寝床をつくれずに、あちこちで縮んでいる。ああ透き通ったやさしいつめたいくまたちの姿がもうどこにもなく、手のひらよりも小さく干からびて、あのきらきらの透明な毛も、まちがいみたいにみんな抜けきってしまった。街に降りた熊たちを慰めるものももういない。
つめたいくまたちがいなくなったら、たぶん山はもう一層冷え固まって、やがて来る春を小さくしてしまう。あたためてあげようとすると、くまは、つめたいくまたちは、たちまち溶けてなくなってしまう。


散文(批評随筆小説等) つめたいくま Copyright はるな 2025-10-21 16:08:40
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