再び出逢う人形劇三国志─土曜の午後の記憶
花野誉

小学生の頃、土曜日、たまたまついていたテレビから、心を鷲掴みにされる歌が流れてきた。

それはエンディング曲で、その時は何の番組かは分からなかった。
放送局はNHKだった。

翌週の同じ時間より少し早めに、NHKにチャンネルをガチャガチャ回し、テレビを観ると、それは人形劇「三国志」という番組だと分かった。

それはそれは美しい人形達が、今まで知らなかった中国の歴史を演じていた。

最初の頃は、エンディング曲が聞きたくて観ていた。
だいぶ後、その曲が細野晴臣氏の作詞作曲のものだったと知り、「どおりで」と納得した。(子供時代、細野晴臣が誰かなんて知らなかった)

毎週観ている内に、気がついたら、人形劇「三国志」自体にハマっていた。

当時は録画するものが無かったので、家にあるマイク付きのテープレコーダーで、スピーカーにマイクを押し付け、番組を丸ごと録音した。
周りの音が入らないよう、家族に静かにするようお願いし、自分自身も己の呼吸音が入らないよう、息を潜めて録音した。
それでも、色んな音が入ってきたが。

そうやって、苦心して録音したテープから、声優さん達の声を聴き、一度だけ観た映像を頭に浮かべながら、何度も楽しんだ。

高校生になって、同じテニス部のキャプテンが人形劇「三国志」ファンと知り、二人でNHKが販売していたVHSを購入した。
キャプテンはお金持ちの娘さんで、ダビングする機器が揃っているとのことで、本物とダビングしたものを二人で分けた。

最近、また観たくなった。
しかし、引越でVHSを観られる機器を処分してしまったため、販売されているDVDを購入しようと思ったが、なかなかの高額で躊躇った。

もしかしてと思い、YouTubeで検索すると、全話アップしてくださっているチャンネルがあり、見つけて興奮し感激した。

人形劇「三国志」の人形は、とても魅力的で、観ていた小学生当時の私的ランキングでは、一位・曹操孟徳、二位・周瑜、三位・趙雲子龍だった。

中でも曹操孟徳が好きでたまらず、どうやったら彼(人形)と結婚できるのか真剣に悩んでいた。

曹操孟徳が酒宴で「短歌行」を詠う場面があり、それが先に観たかったのだが、何話か思い出せず、チャットGPTに質問することにした。
 
最初、チャットGPTは題29話「曹操の夢」に、それが出てくると言ったが、そもそも「曹操の夢」という題名の回は無く、それを指摘すると、「第21話『曹操の酒宴』でした」と教えてくれた。
しかし、そんな題名の回も存在せず、結局、チャットGPTに聞いても分からずじまいだった。

なので、一話ずつ観ていこうと思ったが、ふと、「赤壁の戦い」辺りでなかったろうか?と当てずっぽうで観てみたら、はたして、正解だった。

曹操が気分よく「短歌行」を詠い、それに意見した家来を刀でぶった斬る場面だった。

なぜ、こんな荒々しい曹操にぞっこんだったのか、当時の自分に尋ねてみたくなる。

曹操が格好良いのは間違いないが、一話から、再び観始めると、関羽雲長がやたら素敵で男らしく見えた。
当時は惹かれなかったのに、今更惹かれるのは、齢を重ねて、趣味が変わったからだろうか。

これから出てくる周瑜や趙雲子龍に対しても、どんな感情が湧くのか。
それも楽しみにしつつ観ていくことにする。








散文(批評随筆小説等) 再び出逢う人形劇三国志─土曜の午後の記憶 Copyright 花野誉 2025-09-21 11:13:51
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