湖に降る雨
リリー

 暮景の湖で音もなく 
 どこまでも拡がる雨の輪が
 いく重にも折り重なった所に
 游いでいく女の亡骸
 
 小舟を出して眺めていると
 辺りは何も見えず
 静かすぎる
 奇妙に笑いを浮かべて
 手のひらを握っている女は
 脱け出している私の魂なのか?
 不安だった
 
 降りつむ雨が描く小さな輪の合間を
 行きつ戻りつ
 心底一人だという気がした
 かるい雲母のように光る過去も
 移り変わる現在の道行も
 いまは忘却だけが
 あやうく自分を支えているかに思える
 ああ、何もかもいや
 あの人も
 もういや、
 濃い墨色の雨を吸いこみ煙る湖に
 衝動!

 湖面をのぞく貌に
 漂う女のあやしげな笑いが
 のりうつっている
 眼を瞑れば
 すすり泣く小さな心臓
 あの女は、私の魂に違いなかった
 
 


自由詩 湖に降る雨 Copyright リリー 2025-09-19 10:01:06
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