無縁坂 ーS氏に捧ぐー
夏井椋也


どこまでも
続こうとする坂道
喘ぎながら

繰り返される
独り言のような呪文
聞きながら

闇雲にしがみついた
あなたの背中
眠ったふりしながら

安いおしろいに混じった
汗の匂い
嗅ぎながら

白い花もしくは
小さな洗濯物の影
盗み見ながら

あなたが
辿り着いてしまう場所
半ば予期しながら

おへその
下あたりがくうんと
痛んだ

記憶のはじまりは
降りやまない
蝉時雨の中



<文京区>東京の坂シリーズ



自由詩 無縁坂 ーS氏に捧ぐー Copyright 夏井椋也 2025-09-13 09:02:20
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