真紅の門からひろがる空漠をぬけていく南風
菊西 夕座
歴史ばかり雄弁な片割れ石碑のどこにも書いていないが
多賀城の南門から素足をのぞかせた未開の少女が入ってきて
わたしの首になめらかな両腕をかけて影へみちびきいれた
そのときからわたしの胸には真紅の門が虹のようにかかり
涙で半円にえぐれた二条の水路を北にながく延ばしながら
せわしい時代から切りとられたまま丘陵で口をあけている
エミシとのまじわりに備えて盛った鎮守もいまは空漠の園
生活道路は城門のまえで横向きに据えられてしまい
知能をそなえた車が案内するのは合理的な知識ばかり
欠けた時代の反映を受け入れる口にこそ真の繁栄はめざめ
腕をまわしてくれた少女だけが風をつれて門を通りぬけ
恥じらいの慎みをまるめこんだいたずらな目つきで微笑み
若々しい女ざかりの正門から春がきたことをつげる
タガをはずして高め合う欲情とひきもどされる着衣
ふくれた空漠で秘所をふさぎ合う交感さえゆるしはじける
少女は仮構の成熟から羽化する飛翔の快楽を手にいれ
交換でわたしに現の首から羽化する夢をあたえてくれる
夜明けまえに彼女は石だらけの政庁跡から下って夏の門をでていく
廃墟に腰かけたままわたしは木立の葉ずれに耳目を埋葬ていく
丘の下では生きそこねの泥をすって蓮が花をひらきはじめる
失われた生の不在史を水面にうつして太陽は花のかたちを完成させる