浮き袋
洗貝新


ピチャピチャッ
大きな浮き袋に乗って
わたしはツバルを目指していた。
鴎が降りてきて動力のイルカに指図する
 ~おらおら~そっちじゃない、あの蜃気楼を目指せよう~
デヴィッドがたっぷりのサンオイルを手にして
背中をゆっくりマッサージしてくれる
ああ~気持ちいいわあ~
よく気の利くお猿ね。
ときどきジェット機のように飛んでいく鴎
大型船がくれば高波に浚われる
心強い監視役だわトラサルディ
デヴィッドが太股に塗るから横になれという
わたしはサングラスをはずして
炭酸水を少し口にした
彼は日傘の位置をずらしてくれた、そのとき
、ザバ、ザバザバザバダ~
何に驚いたのか
急にイルカがスピードを上げて泳ぎだした
  イワシの大群が波に撥ねている
あれ~
浮き袋が横に傾いた
何もない碧い海
アタマから少し沈み込んだわたしは
すぐに体制を立て直そうと藻掻いてる
脚先をバタバタと音を立てて、あ!
アラ?何かがわたしの踝に引っかかるのよ
何かがわたしを深い海の底に
引きずり込もうとしているの
~きゃあ~なに~
碧い底の方から光る
金色に輝く大きな目が睨んでる
プシュケ~炭酸の泡が舞う
、な、なに、大王様?

お姉ちゃん、姉ちゃん
ちょっと、
脚を向こうにやってよ。もう~
ボクは星の王子さまの続きを夢見ていた
地中海を超えたその途中、
、なんだよ~もう~
ボクは背中を起こすと
こっちに向けていた脚を
向こう側に蹴ってやった
枕を抱いてモグモグ
姉は寝返りをうって
脚をひとつ大きく蹴り返してきた
浮き足だつなノン
なあんだ?
腹にうずくまるニャンも
不機嫌な顔して姉を振りかえる
また続きを見よう
反対を向いて眠れ
地平線遙かな旅
そろとろ夕飯の時刻だろうね。








自由詩 浮き袋 Copyright 洗貝新 2025-09-12 00:31:51
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