冷奴
リリー


 日の暮れ早い
 夕ご飯のテーブルに今夜は
 旅先で買った青い陶器の深皿を
 出してみる

 そこへ絹ごし豆腐を半丁のせたら
 白い孤島のようにみえて
 潮風と打ち寄せる波が茫漠とひろがり
 朧にきこえる
 北の沿岸で鳴く海猫

 豆腐には薬味のネギも
 生姜やかつおぶし、
 醤油すら垂らさずに
 箸先で一角を崩して口へ運ぶ

 舌に触れる冷たさはあっけなく
 みなわの泡がつぶれるように
 消え去って
 あとを引く大豆のにおい
 
 空腹の胃袋に滑りおちる
 青い深皿の冷奴
 中まで白く見えても私の腹で
 黒く染まってしまうかも知れない

 縁うすい世間の片隅で
 静かにそっと生きている私でも
 煩悩や邪念にみちているのだから
 


自由詩 冷奴 Copyright リリー 2025-09-08 06:56:26
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