冷奴
リリー
日の暮れ早い
夕ご飯のテーブルに今夜は
旅先で買った青い陶器の深皿を
出してみる
そこへ絹ごし豆腐を半丁のせたら
白い孤島のようにみえて
潮風と打ち寄せる波が茫漠とひろがり
朧にきこえる
北の沿岸で鳴く海猫
豆腐には薬味のネギも
生姜やかつおぶし、
醤油すら垂らさずに
箸先で一角を崩して口へ運ぶ
舌に触れる冷たさはあっけなく
みなわの泡がつぶれるように
消え去って
あとを引く大豆のにおい
空腹の胃袋に滑りおちる
青い深皿の冷奴
中まで白く見えても私の腹で
黒く染まってしまうかも知れない
縁うすい世間の片隅で
静かにそっと生きている私でも
煩悩や邪念にみちているのだから