暗闇坂(くらやみざか)
夏井椋也

この街から
本当の暗闇が消えて
どれほどの時間が
過ぎ去ったのだろう

街の暗闇から追われた
人ではない者達は
やがて人の内の暗闇に
棲みつくようになった

今宵

宴の余韻を
引き摺りながらゆうらりと
ふたつの影が坂を上る

暗闇と暗闇を
寄せ合った男と女が
街灯も疎らな坂を上る

さっきから
女の名前をどうしても
思い出せない男は

そんなこと
どうだっていいだろうと
女を引き寄せようとするが

その手が掴んだのは
女の華奢な肩ではなく
ふうわりと白い尻尾



<港区>東京の坂シリーズ



自由詩 暗闇坂(くらやみざか) Copyright 夏井椋也 2025-09-03 11:48:50
notebook Home