梨
そらの珊瑚
二十歳くらいの頃
梨の皮をビーラーでむいていると
それを見た父が怒りだして言った
「そんな梨は食べたくない」
わたしは内心、バカみたい、と思ったのだが
火に油を注ぐのも面倒なので黙っていた
ひとりで梨を丸かじりして平らげた
梨の身からあふれた甘い汁は
手から肘を伝いしたたり落ち
首振り扇風機の青いはね
南部鉄の風鈴のこえ
シンガーミシンの縫い進むおと
仏壇からは線香の白檀がほのかにただよう
今年も梨の季節がおとづれ
ざらっとしたその皮を包丁でむきながら
バカみたい、とつぶやいてみる