手の中のクスサンは
ただのみきや
力ない羽ばたきだった
抗うにはあまりにも
変身するためにひたすら食い
変身したらひたすら交尾する
仔の頃に食われたら負け組
交尾産卵の後なら勝ち組だ
去る夏の背
しっぽり濡れた夜
その忘れ形見は早朝から
カラスに食われスズメに食われ
枯葉のような翅だけがそこかしこ
胡乱な瞳で見上げていた
異人にことばを継がせようと
舞台上にはいつだって
傾いだ季節が
非在の女神が
両掌にそっと
クスサンをつつめば
近所のこどもらは変な声を上げ
おとなたちは顔をしかめる
刺しも咬みもせず
毒もなければ痒みもしない
擦り切れた脆弱ないのちの残り香を
嫌うのもまたしかたのないことだ
「生理的に受け入れられない」
ああそれはよくわかる
片方の情報をでたらめとして
自分が信じている情報を絶対とする
溢れかえった右寄りと左寄りの
無意味なソースのぶっかけ合い
文章について語り
詩について語ったつもりのネット無双
手垢のついたことば という
手垢のついたことばでとりあえず
叩いて自分の位置を確認する
色眼鏡が自部の手垢だらけなのも気が付かず
なんでも自分の知っているものと
一緒なのだと思い込める
SNSのない
百年くらい前なら
村一番のお馬鹿さんで済んだような人々
わたしもまたそんな
生理的に受け入れられない
いきものが沢山あるわけだから
さあさあ踏みつぶせ踏みつぶせ
無害無力な虫けらを
無様に残された枯れ葉色のことばの中から
胡乱な目が焦点もなく
お前を見上げて笑っているぞ
(2025年8月31日)