無精卵夢想
ただのみきや

割ってもひよこは生まれない
そいつは無精卵だ
格安スーパーの特売品みたいに
みんな争って手を出すものだから
ころがっているようにでも見えたのか
だが動いているのは回りだけ
ひとの渦 ことばの渦 
いいように運ばれていただけ
それで そいつを握って振りかざし
さあどうする 誰かにぶつけるのか
でもいったい誰に?
道路や壁 
誰かの家や掲示板に叩きつけるのか
いのちにならない染み痕残し
悦に浸っていられるか
周りや自分を無駄に空しく汚すくらいなら
料理でも作ればいい
いのちがなくたって栄養がないわけじゃない
たまご料理は火加減が難しい
オムレツ出汁巻きは特にそう
食ってうまいと感じるものが仕上がったら
身近なだれかにふるまえばいい
生きたたまごは外側からじゃない
内側から割れるものだ
いのちはおのずから見えざる殻を破り
世界へと出現する 
卵の中心に開いた秘密の通路を経て
外界からこの「世界」という内界へ
新しいいのちが生まれる時
デモもシュプレヒコールもいらない
軍事パレードもバネ仕掛けの兵隊たちも
お偉いさんの許可も議論もバカ騒ぎも
世界から見ればほんの片隅の
いのちにとっては唯一の
期待通り希望通りの時でなく
いのちにとってはただ無二の
時と場所  そんなにも 
期待外れにやって来て
未来を託せるほど成長する
中身はいじれないが
いのちを育てるのは案外いつの時代も
悩んで迷って右往左往
われらのごとき凡百の輩ではなかろうか


                 (2025年8月24日)










自由詩 無精卵夢想 Copyright ただのみきや 2025-08-24 12:09:14
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