フルーツサンド
たもつ



銀座に触れる、と
わたしの戸締りは終わった
暮れていく週刊誌を
めくり続ける侍の姿が
何よりも美しかった
誰かにそのことを
伝えたかったのに
みんなサーカス小屋に
入ってしまった
残された現金出納係だけが
資生堂パーラーの
フルーツサンドを食べている
柔らかな横顔が
父によく似ているけれど
父の顔がうまく
思い出せない
飛行船がゆっくりと
上空を通過する
あの中には
まだ幼い頃のわたしを
覚えている人がいるはずだった
最後にスイッチを切ると
街の灯りが消えて
わたしの銀座はもう
どこにもなかった



自由詩 フルーツサンド Copyright たもつ 2025-08-23 10:22:11
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