フルーツサンド
たもつ
銀座に触れる、と
わたしの戸締りは終わった
暮れていく週刊誌を
めくり続ける侍の姿が
何よりも美しかった
誰かにそのことを
伝えたかったのに
みんなサーカス小屋に
入ってしまった
残された現金出納係だけが
資生堂パーラーの
フルーツサンドを食べている
柔らかな横顔が
父によく似ているけれど
父の顔がうまく
思い出せない
飛行船がゆっくりと
上空を通過する
あの中には
まだ幼い頃のわたしを
覚えている人がいるはずだった
最後にスイッチを切ると
街の灯りが消えて
わたしの銀座はもう
どこにもなかった