白髪
鯖詰缶太郎

退勤を押す
瀝青が泡沫を吐き出す湿度をまといながら
誰もが楽園を見つけだせなかった旅人のように
骨格を曲げている

さびしい さびしい さびしい さびしい

柔軟さを失いながら猫は歩いている
もうすぐ二本足で歩けそうだ
なにもかも恐れを知らない勇気と引き換えに
壁は乗り越えられないという知識が
右脳にも左脳にも群生しはじめて
辺りは暗くなり
私は白い絵の具が切れているのだと
ようやく気付く

なにをそんなに白く染めようとしたのだろう
誰のために聖域らしきものを
白く塗っていたのだろう
途中から疑い始めた芸術とやらは
若い自分がなりたいと思わなかった
拳を真っ赤にして殴りつけていた
硬質な冷たく無限に視界を阻んでいた
壁にあまりにも似ているんだよ
そのものだろうか
あまりにもそのものだろうか

利き腕だけが
卑怯者になっていくのだろうと思っていた

心臓を塗らなければならない
このままでは人の心臓に見えなくなる

夜に紛れたわけではなく
黒目の元々の形を思い出そうとする時間だと
思いたい
やわらかい心臓が
まだ私の中で脈を打ってくれているというのなら
朝を眩しく感じたいと
双眸は、にじむのだ



自由詩 白髪 Copyright 鯖詰缶太郎 2025-08-17 01:51:51
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