竜が街を歩いている
みぎめ ひだりめ

まどらかな 朝の空気が
うすくのばした 綿みたいに
街中を したたっている



誰かが眠っているであろう
真っ赤な屋根の お家が
折れた 背骨みたいに
やわらかく
押し潰されている



ああ そうか
あいつは呼吸をしていない
ぬめりとした 鱗を
どれだけ 揺らしても
光に うつらないのは
あいつも また
ぐ  と眠っているからだ




並べられた たくさんの家は
見えない海のなかへ
どうしようもなく
どうすべきもなく
ぐぐまってしまって
静かに じとっと ついえていく



ああ あの家って
昨日 一緒に帰った あの子の





あいつは四肢を 地面に突き刺し
錆びついた翼を 空に広げている
翼骨に挟まった 欠片が
ざさ ざさ と 空気に落ちていく

ああ 
きっと あいつは 誰かの願いなのだ
朝など来ないで欲しかったのだ
ずっと ずっと 眠る言い訳が欲しかったのだ

その巨大な瞼を 閉じたまま
ぐ ぐ ぐ ぐ ぐ
あいつは 世界を羽ばたかせていた
ぼくは あらゆる瓦礫の 海に抱かれてしまって

ぐ ぐ ぐ ぐ ぐ

滴っている 綿みたいに
ぼくは じっとりと 街中に広がった
それは ぬめりとした
あいつの 鱗のようだった


自由詩 竜が街を歩いている Copyright みぎめ ひだりめ 2025-08-11 19:03:40
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