竜が街を歩いている
みぎめ ひだりめ
まどらかな 朝の空気が
うすくのばした 綿みたいに
街中を したたっている
ぐ
誰かが眠っているであろう
真っ赤な屋根の お家が
折れた 背骨みたいに
やわらかく
押し潰されている
ぐ
ああ そうか
あいつは呼吸をしていない
ぬめりとした 鱗を
どれだけ 揺らしても
光に うつらないのは
あいつも また
ぐ と眠っているからだ
ぐ
ぐ
並べられた たくさんの家は
見えない海のなかへ
どうしようもなく
どうすべきもなく
ぐぐまってしまって
静かに じとっと ついえていく
ぐ
ああ あの家って
昨日 一緒に帰った あの子の
ぐ
ぐ
ぐ
あいつは四肢を 地面に突き刺し
錆びついた翼を 空に広げている
翼骨に挟まった 欠片が
ざさ ざさ と 空気に落ちていく
ああ
きっと あいつは 誰かの願いなのだ
朝など来ないで欲しかったのだ
ずっと ずっと 眠る言い訳が欲しかったのだ
その巨大な瞼を 閉じたまま
ぐ ぐ ぐ ぐ ぐ
あいつは 世界を羽ばたかせていた
ぼくは あらゆる瓦礫の 海に抱かれてしまって
ぐ ぐ ぐ ぐ ぐ
滴っている 綿みたいに
ぼくは じっとりと 街中に広がった
それは ぬめりとした
あいつの 鱗のようだった