たもつ



ポストになりたくて男は
ポストの隣に立ち大きく口を開けた
ご丁寧に首から
「本物のポストです」
と札もぶら下げてみた
けれど誰も手紙を入れてはくれない
華やかに装った初老の女性も
悲しげな顔をした中年男性も
みな素通りして隣のポストに手紙を入れる
それどころか数度来た集配人すら
中を確認しようとはしない
日が暮れかけたころ
手の届かない女の子から手紙を受け取り
男は偽物のポストに入れたあげた
女の子は小さな声でお礼を言った
男は言葉がすっかりわからなくなっていた
その晩 男は夢の中で大きなクジラになり
ゆう然と泳ぎもしたが
海はどこにも続いてなかった




自由詩Copyright たもつ 2005-05-31 14:47:18
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