クロール
蕎麦屋の娘
アリが爪でガラス窓を登った
でこぼこしているからだと
思い込んだ
道が変化した
思い詰めてスグリの実の生る
植え込みのしたに人の声を聞いた
「用心に用心をかさねた」
「手に手をかさねた」
「げん滅をかさね終えた」
もどかしい眠りより夢のほうが
せせらぎのように岩からはがれた
道のそばを歩いていて
足音のような下生えにもつれた
かけがえのないものさえ
潜まない土のくもり
日差しを杖にしてやっと
立ちあがると
帳簿を開いた店主が
ペンの先で記した
「ショウガをすりおろした」
「庇をすりおろした」
「まぶたをすりおろした」
見たものはくらやみのうちで目を回すくらやみ
に浮かぶカーテンをうしろ手に閉めた
開いた窓から
彼のうちに彼がおりた
ゆくえをかきむしった
茂みが折り重なる大地を
何の心配もせずに歩いていた
開いた窓から
彼はにじむうちに彼のかたちに切りのぞいた
ときおりアリが爪をたてて走るのが
風景には風景のゆくえを流させた
肋骨などが写っていた